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「別に何も・・・」
真っ赤な顔で耐えるようにこぼした言葉に説得力は無い。すぐに背中を向けられて、「あちゃあ」と声が漏れた。
あの態度は、かじるくらいはされたのかもしれないと予想する。大人しい彼女が、あからさまに反応する姿は面白い。なんだか楽しくなってきてしまった。橘は目を細める。
「じゃあ、私はこれで。」
よいしょ、と色気のない声で聖は2つの手提げ紙袋を持ち上げた。ずっしりと重く地面に着きそうなそれは、小柄な彼女の身体には荷が重すぎるように感じる。
頭を下げて帰ろうとするのを、橘は慌てて止める。
「牧原さんの荷物やばいね。どうしたの?」
「今日中に郵便局に持っていくんです。私通り道なので」
「いやいや、量やばいでしょ」
「はあ、まあ・・・」
「貸して」
右手の紙袋を掻っ攫うと、予想以上に重かった。ポリプロピレン素材の紐の取っ手が、掌に食い込む。この時間に受付してくれる郵便局は、決して近いとは言えない。
「え〜、こんな重いの一人で持っていこうとしてたの?」
袋を取り上げられて、宙を彷徨っていた彼女の右手を取りひっくり返す。
小さくて白くてプニプニ。
柔らかい女の子の手だ。ひんやりとした感触が気持ちよくて、親指の付け根の盛り上がったところを揉んだ。
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