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「いらないかな」
顔と顔の距離は握り拳一つ分しかないというのに、牧原さんは不思議そうに瞳の奥を見つめるだけだった。
自信無くすなあ。
社内ではイケメンの部類だし、そこそこモテる方なのに。
顔赤らめるとか動揺する素振りもない。
女の子の扱いは慣れているはずだったのに、牧原さんを前にするとその自信が木っ端微塵に砕け散ってしまう。
ヘーゼルナッツの瞳はあまりに真っ直ぐで、心の奥を見透してしまいそうで怖くなった。
仕事の業績で勝てない一磨から、恋愛なら勝てるんじゃないかと思ってしまった事とか。
牧原さんなら簡単に俺に惚れるんじゃないかと舐めていた事とか。
随分の失礼な妄想だ。
思わず目を逸らしてしまった。
「行こっか」
橘はゆったりとした足取りで歩き始める。もう一度ビルを見上げたが、やはり何も見えなかった。
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