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プロローグ
お洒落なペンダントライトを見上げると、眩しくて眉を寄せた。
ガヤガヤと騒がしい店内はとても混み合っていた。
皆どこか生き生きとした表情をしていて、何となく取り残されたような気がした。
「華の金曜日だもんなあ」と思いながら冷えた手をホッカイロで擦り合わせる。
とにかく人が多い。辺りを見渡せばすぐに探し人は見つかった。
「聖さん、こっちです」
可愛らしい後輩に名前を呼ばれて、聖はぎこちなく頷いた。
コテできちんと巻かれたツヤツヤの髪の毛を追いかけながら、既に帰りたくなってしまった。
だって、場違いな気がする。それは店内に入った時に感じた違和感だったが、後輩を見て確信に変わった。
薄手の白いニットの後輩とは対照的に、自分は寒さに耐えきれずヒートテックにもこもこのカーディガン。
しかもポケットにはホッカイロまで忍ばせてきたのだ。
今季一番の大寒波が近づいているらしい。
「雪ちゃん、私終わったらすぐ帰るからね」
「分かってます。聖さん飲み会でもそうですもんね」
「他に誰来てるの?」
「全部で8人。営業課と広告制作課からです。総務からは私と聖さんだけです」
「そう」
ギャルソンを着た店員とすれ違いながら細い通路を歩くと、個室が並んでいるらしい。喧騒が遠くに聞こえる。
これなら打ち合わせも落ち着いてできる。と安心し、早々に切り上げて帰ろうと決意した。
社内行事の一つである冬のスポーツ会の打ち合わせなのだ。ボウリングだろうが、ドッジボールだろうが何だって構わない。多数決で決めて早々に帰ろう。そもそも社外で打ち合わせする必要はあったのだろうか。しかもこんなお洒落なお店で。
ホッカイロをポケットに仕舞い込む。
1番奥の部屋の扉の前で、雪が「あ、」と声を上げた。
「スポーツ大会は、多数決でバドミントンになりました。なので、今日はとことん飲みましょうね」
雪の言葉の意味が分からず、聖はパチパチと瞬きをした。
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