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プロローグ
「新郎様がまだご到着されていません。お式の方はどういたしましょうか?」
ホテルの従業員の声に、綾瀬花奈(あやせかな)の喉もとには嗚咽が込み上げてきた。花奈の父は硬く握り締めたこぶしを震わせている。その横で母は涙ぐんでいた。
そんな時、謝罪するはずの元松良裕(もとまつよしひろ)の両親はいない。彼が幼い頃、交通事故で亡くなってしまったのだ。
だからこそ、天涯孤独な彼と温かい家庭を築いていきたいと花奈は真剣に考えていた。それなのに、どうしてこんなことになってしまったのだろう……。
純白のウェディングドレスに身を包んだ花奈をあざ笑うかのように、いきなり耳鳴りが始まり、周囲の景色が揺らぎ始めた。
聞こえてくるさざめきは、どうやら参列者のものらしい。
花奈は気を失うまいと歯を食いしばったが、だんだん意識が遠のいていくのを感じた。
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