第1章 悲しみ

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 綾瀬食品は創業100年、花奈の祖父が立ち上げた会社である。業務内容は チルド、冷凍調理食品の製造、販売で、主力商品はチルドの焼売と餃子だ。大手スーパーや生協、学校給食、食材宅配業者に納品しており、全国に6工場を持つ。最近はハワイにも進出している。 花奈の祖父が亡くなり、そのあとを継いだのが父。しかし、花奈は一人娘であったため、その後継にと嘱望されたのが、元松家の次男である良裕だった。 元松家は代々、大手スーパーを経営する大事な取引先である。お互いの家の結びつきによって、更に事業を拡大させようとする、いわば、策略的な結婚を花奈は両親によって強いられた。 花奈は親が勝手に決めた結婚に呆れ、嫌気が刺していたが、良裕とお見合いすることによって、その意見も変わった。  良裕と出会った瞬間、鳥肌が立つような感覚に囚われながら、花奈は挨拶した。 「綾瀬花奈と申します。よろしくお願いいたします」  良裕の身長は花奈よりもかなり高く、彫刻のようにきりりとした顔立ちはハンサムという言葉以上の魅力を発散させている。
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