第2章 戸惑い

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第2章 戸惑い

 三年後、花奈の心の傷も癒えかけた時、和泉誠矢が待ちかねたように接近してきた。誠矢は数年前から綾瀬食品の取締役になっていた。  誠矢は花奈より10歳年上だったが、花奈のことをいつも真剣に考えてくれていることに気がついた。良裕が去った後、昼も夜もそばにいて、力づけられているうちに、花奈は段々と誠矢に傾いていった。  三ヶ月後、両親の勧めもあって、花奈は誠矢と結婚した。  誠矢は誠矢なりに良き夫だった。夫婦生活は間遠になりがちだったが、花奈にしても我を忘れるような愛情を抱いていた訳ではなかったので、それなりに満足だった。  結婚してすぐに父が癌で亡くなり、綾瀬食品の社長になってから、誠矢はそのお返しのように、妻には好きなだけ贅沢をさせた。そして誠矢は妻の喜ぶ顔を見るのを何よりも楽しみにしていた。
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