拝啓・いなくなってしまったあなたへ

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いかがお過ごしでしょうか? そちらはどのような所ですか? 我が家ではこの間、月見をしました。 幸と、俺で餅をついて食べました。 父さんは、下手で、餅の代わりに臼の端をよくついていました。 甘くて、美味しい、あなたの作った餅を食べたいと思いました。 でも、俺たちの作った餅もなかなか美味しかったですよ。 ちゃんともちもちしていて、ほんのり甘くて、あなたの作った餅には遠く及びませんが、初めて作ったにしては良い出来と言えると思います。 そう言えば、もう少しで、幸の誕生日です。 なにが欲しいのか、検討もつきませんが、幸は絵を描くのが上手なので、俺と父さんで、今度お店に行って新しい画材を買う予定です。 幸の絵と言えば、この間幸が描いた家から見える海が見事でした。 透き通るような青が奥へ奥へと続いて、ふと気づくとその青が深い緑に変わっているのです。幸にはきっと絵の才能があるのでしょう。あなたに、その絵が見せられなくて残念です。あなたも海が大好きでしたから。 最後に、あなたがいなくなる前、何で俺を産んだんだ、何て言ってごめんなさい。 突き飛ばしてごめんなさい。 大嫌いだなんて言ってごめんなさい。 俺は、あなたが大好きです。 産んでくれたことにも、感謝しています。 あなたの全てが、大好きです。 ………やっぱり、子供を助けるために死んでしまったあなたは、少し嫌いです。 他の子供を助けるより、俺を…俺たちと、おばあちゃんになるまで一緒にいて欲しかったです。 いつか産まれる、俺の子供も抱きしめて欲しかったです。 帰ってくるはずないと分かっているのにまた、こんな手紙を書いてしまう俺を許してください。 追伸 あなたが居なくなってから、幸がただいまも、おかえりも、言ってくれません。 何枚目かになる手紙を描き終えて、そのまま封もせずに机の引き出しにしまい込んだ。 ゆっくりと立ち上がって今日の夕飯は何にしようか、何て考える。 幸はよく笑う子で、母さんがいなくなってからも俺たちを励まそうと笑ってくれる。 父さんは、俺たちが寂しくないようにと、早く帰ってきてくれるようになった。 俺は、生活のためにバイトを増やした。 母さんがいないのは、とてつもなく辛い。 それでも、俺たちは生きているから、生きるための、今までの生活をつづける。 母さんがいなくなってからは大変だけど、ほんとは、生きるための動作に少し、母さんのしていた分が増えただけなんだ。
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