2:バナナ男子は強い子

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2:バナナ男子は強い子

休日でも朝はきちんと起きてランニングから始まる。それは間違いなく私の習慣だったのに。 ぐっすりと眠って目を覚ますと間近に金髪イケメンがいて、あたしは叫びそうになるのを堪えてため息をつく。 突然この人が現れてからしばらく、すっかりこの人がいる生活に慣れてしまっている。 言っておくが一緒に寝ているわけじゃない。 ちゃんと来客用の布団を床に敷いて寝かしているのだ!なのに毎朝、起きると何故か目の前にいるのだ。 何度か真剣に怒ったが自分でも無意識で寝ている間に体温を求めてるとか何とか… あれかな、もう大型犬を飼ったつもりになるしかないと思っている。 起き上がって時計を見れば午前9時になるところで、今日もまたゆっくり寝てしまったことに気づく。 金髪イケメンの人が現れてからやたらと寝るのが心地よくて朝のランニングはすっかりご無沙汰になってしまった。 それでも私が前のように早起きしようと躍起にならないのは今の方が気持ちも体も調子がいいからだ。 なんだかすごく複雑だけど。 あたしはベッドでまだ寝ている金髪イケメンを放置して休日にやろうと思っていた家事を始めた。 洗濯、掃除を一通りすませて朝食を作り始めたところで、ベッドの山がもぞもぞ動き出すのに声をかける。 「もうすぐご飯できるから顔、洗ってきたら?」 「うーん…おはよう…そうする~」 まだまだ眠そうな顔で少しフラフラしながら洗面所へと向かう。ペットどころか、あたし母親みたいだな、なんて思った。 「おいしい!これ何?」 「ピーナッツバターにバナナはさんでるの」 ネットで見かけたレシピだった気がする。 簡単だし美味しいからつい作っちゃうんだよね。 わりと甘いから好き嫌い別れるかもだけど、 気に入ってくれたみたいで良かった。 ご飯食べた後の片付けはやってくれると言うので任せる。初めは大丈夫かと不安になったけど、 やたらと寝起きが悪いだけで不器用ではないのだ。 この人が平日にも家事をやってくれているから、かなり休日に余裕があるんだとも思う。 あと一緒にご飯食べるって楽しいな、って。 仕事中は交代で食事とるし、働きはじめてからはゆっくりランチとかより飲み会の方が多い気がする。 飲み会は飲み会で嫌いではないんだけど、 …あたしも随分まったりとしたこの空気に慣らされてしまったな…とか。 休日に何をしようとか考えて楽しいのは一緒に楽しめる人がいるからかもしれない。 「ーってまったりし過ぎだよ!!運動は適度にしなきゃ!」 お昼は外に食べに出て少し久しぶりに体組成計に乗ったらヤバかった。 あたしはランニングウェアに着替えて近くの公園へと走りに行こうと決める。 「え、今から外でるの?もう暗いよ…次の休みからにしたら」 「そういうこと言ってるからダメになるの! やるべきことは今日!するの!!」 「わかった、わかったから~ 俺も一緒に行くよ。危ないし」 「どっちでもいいから、来るなら急いで!」 「はーい」 部屋の中ですでに足踏み状態のあたしに急かされて 一緒に公園へと向かった。 一緒に公園には向かったけど、ほぼ一緒に走ることは出来なかったよね。 予想通りというか全然、体力ないよあの人。 自分のペースで走らないと調子狂うし申し訳ないけど置いてきました。 まぁ広いし暗い場所もあるけどランニングコースが作られた公園内で人も多いし危険な場所なんてないだろうから。 用意してあったペットボトルで水分補給をしながら、 来たコースを戻ろうしたらランニングコース内でイチャつくカップルが目についた。 何なんだと思いはしたものの隣の雑木林を抜けることにする。 走りに来て1時間が経つしそろそろ戻らないと心配してそうだし急ごう。 夜だけに昼でも薄暗い雑木林はかなり暗くなっていて、すぐに入ったことを後悔したけど、 抜けた方が早いから、と足を進める。 その時、背後から突然、抱きしめられた。 暗がりで姿は見えなかったけれど確かに男性で、 ゾッとした。 声を出さないように口を塞がれそうになったけど、必死で振りほどいて叫んだ。 雑木林の中は暗くて見えないけど近くには人がいるはずだから。 「助けてー!!」 あたしが叫ぶと同時に背後で鈍い音がして、 振り返ると太めのおじさん(恐らく)を抑え込んでいる金髪の人がいた。 すぐに他の人達も集まってきて、あたしを襲った人は痴漢の常習だったらしく警察官に連れていかれる。 「なんでこんな暗いとこにはいるの?!」 聞いたこともないような大きな声を出されて驚いた。 顔も今まで見たことない顔で本当に怒っているのだと気づく。 「だ、だって…」 「だってじゃない!」 あたしの言い分なんて少しも聞こうとしない。 そんなこと初めてでどうすればいいのか戸惑った。 「まぁまぁ彼氏さんも落ち着いて、だけど本当に何もなくて良かったよ。 彼氏さん、心配してついて来てくれてたんだろ?」 あたし達に事情を聞きたいと残っていた年配の警察官の人が間に入って宥めてくれる。 「…ごめん……」 あたしが謝ると同時に抱きしめられた。 周りにはまだ人がいるし離れようとしたけど、 それより先に頭の上でグスリと鼻を啜る音が聞こえる。 「…よかった…無事で。 もう危ないから絶対、俺からはなれないで…」 あたしも泣きそうだったけど、あたしより泣いてるんじゃないかこの人。 この後、周囲の人達から拍手を貰って、 慌てて離れてお礼とお詫びを兼ねて頭を下げて回ると、とにかく恥ずかしいので急いでその場を立ち去ったのだった。 「夜の運動、まだ続けるの?」 「朝に起きられないなら夜に運動するしかないじゃん!しばらくあの公園には行けないけど~!」 「じゃあ俺も行くから今度は置いていかないって約束してね」 「……気をつけます」 ぎゅっと手を握られて真剣な顔を向けられるとおとなしく頷くしかない。 解っていたはずなのに握られた手も抱き締められた体も全然、男の人で、やっぱりこの人はペットでも子どもでもないのだ。 「ねぇ…もう絶対にベッドに入ってきちゃダメだからね」 「何でいきなり完全拒否?! 最近は許してくれてたのに……」 しょんぼりしたって絆されはしない。 でも 「でもさっきはありがとう。助けてくれて」 そっと寄り添ってお礼を言った。
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