3:バナナ男子、デートする

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3:バナナ男子、デートする

「すごい!すごいよ~あれ見て!」 連休初日に訪れたのは某有名テーマパークだ。 テレビで特集されていたのを見るなり、行ってみたいと騒ぎだしたので連休に予定をいれるしかなかった。 ある程度、近場とはいえこのテーマパークの広さでは1日では回りきれないしね。 「はやく行こう!」 珍しく早起きも頑張ってくれたし、すぐにでも動きたくて仕方ないと、あたしの手を繋いでくる。 いつの間にか、すっかり手を繋いで歩くのも当たり前で休日にテーマパーク。しかも連休初日だから人もすごい。いつもなら絶対に来ないとこなのに、 この人とならアトラクションに長時間並ぶのも楽しいだろうな、なんて…柄にもないことばかりしている。 キラキラした金髪と長身で人がいる分、いつもより視線を向けられていて、あたしは繋いだ手を離すと彼の腕にしがみつく。 自分でしたことに驚いて離れようとしたけど、 「だーめ」 彼の方から腕を回されて更にくっついてしまう。 周りも割とカップル多くて悪目立ちしないのだけが救いだった。 「このあとらくしょん?に乗ったことある?」 「一回だけね。でも高校の頃だから多分、変わってると思う」 「じゃあ一緒にはじめてだね」 何でそんなことで嬉しそうに笑うのか解らないけど、 そんな顔されると、あたしは初めから敵わなくて、ついつい流されてしまう。 でももう自分で自覚しているのが嫌じゃないからだってわかっているんだ。 そこから幾つかアトラクションに乗って、 食べ歩きをしながら整理券を確保して、 暗くなる頃には本当に足が棒のようになっていた。 せっかくの連休だし今日は近場のホテルに宿泊して 明日も朝からこのテーマパークを回る予定だ。 「パレードどうする? 明日やるのも同じだし、ちょっと早めに出てホテルに戻るのも…」 パレードのメインストリートはここから少し離れている。マップを広げようとすると、彼はあたしの手を取って走り始める。 「え、何?どうしたの?」 「いいから、いいから!」 パレードとは違う方向に連れていかれて、 人もいない薄暗い通りは周囲が賑やかな分、不気味さを感じてしまう。 けれど現れた建物を登って屋上らしき場所に出ると、 そこはパレードほどじゃないけど程々に賑わっていた。何か穴場的な場所なのだろうかと隣の彼に尋ねるより先に夜空にパレードの花火がうち上がった。 歓声が上がる中であたしが隣を見上げると彼は笑って花火を指差す。 せっかく連れてきて貰ったんだし、ちゃんと花火を見なきゃだ。 花火を見ながらあたし達は繋いだ手の指をそっと絡めた。 花火が終わってまた彼を見上げると、 今度はいつの間にか巨大なぬいぐるみを抱えていて驚く。 「何これっ、どうしたの?」 「初めてのデートの思い出に。 みてみて!ほら、足にバナナなアップリケ着けてもらったんだ~」 彼がどや顔で巨大なぬいぐるみの足裏を見せてくる。 そこには確かにバナナのアップリケが縫いつけられていた。多分、ぬいぐるみの首に巻かれたリボンも黄色だからバナナをイメージしているんだと思う。 真面目な顔して注文しているのが想像できて可笑しい。 「ありがとう…すごく可愛い…」 少しだけぬいぐるみの手足に触れてみるけど、それだけで重さを感じるからこれは相当に重そうだ。 あたしには持てないから渡すのではく自分で抱えてくれているのだろう。 「えっとね…おれ少しだけど仕事してる。 これはそれで買った」 「…そうなんだ」 ここ最近、何だか忙しそうだな、とは感じていた。 でもそれを聞くことは出来なかった。 …もしかしたら突然、現れたように、 突然いなくなることだって有り得るんだって気づいてしまったから。 「どうして泣くの?」 言われて流れた涙をぬぐう。 「おれ、何かした?」 首を横に降って否定するけど彼は納得しない。 「ちゃんと言って」 ぬぐっても次々、溢れてくる涙はもう止めることは出来そうにない。 「…っ、どこにも、いかないで…一緒にいて…!」 止まらない涙と一緒に抑えきれない本音を吐き出した。 「……どう、して?」 どうして?ってどういうことだろう。 彼の尋ねた意味は解らなかった。 けど、 「だって、わからないから。 イキナリ現れたから、いなくなるのもそうかもって」 行かないで、とすがるように彼の腕を掴む。 彼は掴んだあたしの手を握って抱き寄せた。 「いなくならないよ…」 「…本当に?」 彼は頷いてあたしの背に回した腕の力が増す。 花火とパレードが終わればテーマパークは閉まる時間だ。周囲の人達はとっくにいなくなっていたから、 あたし達も早く出ないといけない。 「…もう出ないと」 抱きしめられながら彼の肩を叩いて促す。 しぶしぶといった感じで腕は緩められたけど、 離す気はなさそうだった。 そうして彼の指が頬に触れ、背の高い彼が少し屈んであたしの額にキスしてくるのに、あたしが自然と目を閉じれば優しく温かな感触に唇が包まれた。
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