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金髪長身ホスト風(バナナ)
身体を動かすのは嫌いじゃない。
さすがに平日は無理だけど休日には軽くランニングをしてから朝ごはんを食べるのがあたしの日課だ。
「よし、いつものペース」
いい感じに身体もほぐれた気がする。
部屋に戻るとシャワーを軽く浴びて朝ごはんを用意するためにキッチンへと向かう。
その時、あたしは自分のベッドがこんもりとふくれているのに気づいて二度見した。
な、なに?なにこれ?!
足音を立てないようにそっとベッドに近づいて確認する。そこには気持ちよさそうに寝息をたてる金髪イケメンがいた。
なんで???
思わず顔に見惚れてしまったけど違うそうじゃない。
け、警察?!
そうだ警察だよ!気づかれないように部屋を出て…と思ったけど足が上手く動いてくれなくて激しい音を立てて派手に転んでしまった。
「うーん……」
そしてやっぱり金髪イケメンは目を覚ましたらしく、
欠伸をしながら起き上がった。
どうしよう!玄関まですぐそこだけど足は動かないし声も出ない。完全にパニックだ。
「あ、帰ってきてたんだ。おはよ~」
「え、あ、うん…おはよう…」
金髪イケメンの見た目のチャラさに反したゆるい挨拶にあたしもつい返事をしてしまう。どうなんだろう。
金髪イケメンの予想外のゆるさに警戒が薄れたところで部屋に怪獣のようなうめき声が響く。
この狭い部屋の中で発生源は間違いなく金髪イケメンのお腹だったような気がする。いや、でもまさか…
「……へへ、お腹鳴っちゃった」
少しだけ恥ずかしそうに言う金髪イケメンに、
なんかもう無言で朝ごはん作って提供しちゃったよね。
朝ごはんとは言っても朝からがっつりご飯なんて食べる気はしないので、あたしがいつも食べるバナナとヨーグルトに金髪イケメンにはトーストを一枚つけただけ。
それだけなのに、やたらと瞳を輝かせて嬉しそうに食べる姿を見るとまぁ悪い気はしない。
「おいし~すごくおいしいよ!」
「そっか」
あとから落ちたパンくずの掃除しなきゃなって思いながら金髪イケメンを見つめる。
いや今さらだけど本当に顔がいい。
人生の中で一番のイケメンじゃないだろうか。
でもこの人どこから入ってきたんだろう…
ランニングから戻った時、施錠してあるのは確認してたし、窓だって閉まってるし何でイキナリあたしのベッドで寝ていたんだろうか。
こんな落ち着いてご飯食べるような状況じゃないとは思うんだけど…あたしと目が合う度に嬉しそうにニッコリ笑顔むけられたら……。
あたし詐欺とか引っかかるタイプなのかな、と自分に不安を感じてしまう。
「どうしたの?元気ない?」
あたしを伺う金髪イケメンは本当に心配してくれてるように見える。これはあたしの願望なんだろうか。
「疲れてるならゆっくり休んだほうがいいよ!
一緒にねる?」
思わず飲もうとしていたミネラルウォーターを吹き出した。なにいってんのこのひと?!
「おれはね、いつも頑張ってる君みてスゴいな~って思ってた。でもいつもいつも頑張ってるから心配だった」
「……いや普通だし…あたしは普通のことをちゃんとやってるだけだよ」
「ちゃんとやるのをちゃんと出来るのは頑張ってるからだよ」
なんでそんな優しい顔で、優しい声で、優しくはなしかけてくれるんだろう。
「あなたは誰?どうしてここにいるの?」
泣きそうになるのを堪えながら尋ねると、
金髪イケメンは少し困ったように笑って、
カットして置いてあった一口サイズのバナナを摘まむとあたしの口に押しこむ。
「いつもおれを食べてくれてありがとう」
ぺろ、と自分の指についたバナナを舐める仕草はやたらと色気があった。
というか人に食べ物を食べさせて貰うのも大人になってからは初めてなんだけど?!
「頑張ってる姿も好きだけど、心配で心配で気づいたらこうなってて…せっかくだから話してみたくて待ってたんだけど眠くなっちゃって…」
眠くなったから眠って起きたらお腹空いててご飯食べて今に至ると。自由か。
「おれ、がんばるのってちょっと苦手なんだけど、
眠るのは得意なんだ」
眠るの得意ってなんだろう。
ただの良いこかな?
金髪イケメンは真剣な顔をしてあたしへと両手を伸ばした。
「おれと一緒にねて、ゆっくり休もう?」
あたしの休日は朝のランニングから始まって平日には出来ない家事をこなして買い物をして、と予定らしい予定はないのに夜にはいつも疲れてたな。
いつもいつも子供の頃からちゃんとしなきゃって思ってた気がする。
やらないといけないことはあるし頭では解ってるのに今日はなんだか気が抜けすぎてしまった。
きっと目の前にいる金髪イケメンのせいだ。
「一緒には寝ない。…けどゆっくり休むのも悪くないかも…」
「うん!」
なんでこんなことで、そんなに嬉しそうに笑えるんだろう。正直、金髪イケメンの話は信じられないんだけど…でもこの人を疑う方が難しいよこれは。
ため息をついて、とりあえず一休みしようとソファに座ると金髪イケメンも隣に座ってしかもひっついてきた。
「よく休めるようにおまじない!」
そう言って金髪イケメンはあたしの髪を撫でて額へとキスをする。
前言撤回!!
こんなのと一緒にいたんじゃ休まるわけがない!
あたしはおもいきり金髪イケメンを突き飛ばした。
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