一週間後に世界は終わる

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   この学校の屋上は昨今の流行と同じように立ち入り禁止となっている。なので、当然屋上へと続く扉には鎖が巻かれ、南京錠がかけられていた。  しかし、奈央はポケットから鍵を取り出すと南京錠をかちゃりとはずしてみせた。 「どうしたんだ?それ」 「さっき職員室から拝借しておいたのです。」  奈央は自慢げに胸を張って見せた。ドアノブに巻かれた鎖をガチャガチャとほどいている。 「火事場泥棒ってやつか。」 「火事場じゃないよ。地球滅亡泥棒。」 「なんかかっこいいな。」 「……慎ってば男の子だね。」  奈央は呆れたようにそう言って、扉を押す。長年使われていない扉はさび付いているようできいきいと嫌な音を立てた。 「想像してたのより汚い…」  屋上の扉を開けると、奈央はぐったりと肩を落とした。  確かに普段使われることのない屋上は砂ぼこりが積もっていて隅には蜘蛛の巣が張っていた。ところどころ黒ずんでもいる。 「学校の屋上なんてどこもこんなもんだろ。」 「なんかがっかりだなぁ。」  奈央はそういってフェンスにもたれかかる。  屋上のフェンスは高さが胸くらいまでしかない。お世辞にも頑丈そうには見えず、薄っぺらかった。もともと人が来ることは考えられていないから大げさなフェンスを作る必要もなかったんだろう。  奈央がそれっきり何も話さなくなってしまったので俺は仕方なく尋ねる。 「それで、なんで屋上なんかに来たんだ?」  奈央はフェンスの向こう側を眺めていた顔をちらりとこちらに向けたかと思うと、再び向こう側に顔を戻す。「うーん…」と喉の奥で考え込むような声を出した。 「……屋上からだと、グラウンドがよく見えるね。」 「え?」 「いや、屋上からだと見慣れたグラウンドがなんか別の場所みたいに思っちゃうなって。いつも慎たちが練習してるグラウンドがさ。」 「他人事みたいに言っているけど奈央もマネージャーとして練習に来てるじゃないか。」  奈央は野球部のマネージャーとして毎日欠かすことなく部活に来てくれている。部員の俺としても助かっている。 「…ま、そうだね。」  奈央はそう言って笑った。 「突然どうしたんだ?」 「いや、ただそう思っただけだよ。」  なんだか今日の奈央には違和感を感じる。外見も態度も雰囲気も、普段と何も変わらないのに。まるで別人と会話しているようなそんな違和感だ。  でも、俺にはその違和感の原因がわからなかった。  俺は何もいえず、手持ち無沙汰に指をいじくる。なにか話題はないものか。  そういえば、まだ屋上に来た理由もろくに聞けてない。再び尋ねようとするが、それは奈央の行動によって遮られた。 「よっと」  奈央はフェンスに手をかけ力を籠めると、腰かけるように飛び乗った。フェンスがぎしぎしと音を立てる。 「おい、危ないぞ。」 「へーき、へーき。」  奈央はそう言って足を前後にぶらぶらと揺らす。そのたびに薄っぺらなフェンスは小さくきしみ、いつ壊れてもおかしくないように思えた。 「降りたほうがいい。」 「だいじょーぶだって。慎は心配性だなぁ。」  奈央はけらけらと笑う。  俺は、自信たっぷりな奈央の雰囲気に押されてしまってそれ以上強く言うことができなかった。  奈央は足をぶらぶらさせたまま首を上げて空を見ている。 「あ。」  奈央は空を見上げながらそう声を漏らした。 「どうかしたか?」 「ほら、慎。見て。」  奈央は人差し指をぴんと真上に向けてそういった。俺はその指の先に視線を向ける。  透き通った青い空。目が痛いほど輝く太陽。  そして、その隣に同じように輝く一点の光。  その光は星なんか見えるはずがないこの間昼間に、それでもはっきりと見てとることができた。  あれが一週間後に地球に衝突すると言われている隕石だろう。 「本当に終わっちゃうんだね、地球。」  奈央は感情のこもらない口調でぼそりと呟いた。 「そうだな。」  俺もできるだけ平坦に、まるで台本でも読むようにそう言った。  この状況を夢だと思っていたかった。できるだけ現実から切り離しておきたかった。  そうしないと俺は不安で押しつぶされてしまいそうだったから。
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