沙保の気持ち

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沙保の気持ち

「はぁ。」 電車から見る風景は、徐々に見慣れた風景へと広がり始める。長い長いトンネルに入った瞬間、沙保はため息をついた。このトンネルが抜ければ、地元はすぐそこまで迫っていた。 地元の田舎暮らしが嫌で、高校は都会の全寮制の学校へ進学をした。 卒業が近づくにつれ、両親からは 「戻ってこい。」 と言われ続けたが、そのまま大学へ進学してそのまま就職した。 地元が嫌で都会に出たのに、その生活に慣れる事は無く、沙保の心は少しづつ疲弊していった。嫌だった田舎、しかし今は慣れ親しんだ田舎を求めていた。 駅の改札口。 そこは勿論無人。 電車は沙保を降ろすと、誰も乗せずに発車した。 「はぁ、何やってるんだろ、私...。」 沙保はしばらくホームにあるベンチに座っていた。 ベンチから見えるのは広大な花畑...。 しかし今の時期は閑散としていた。 「はぁ。」 再びため息をついてから、沙保は歩き始めた。 帰りの時刻を確認すると、そこには5時間後の時刻が書かれていた。 駅のロータリーにバスが入る。 運転席側の扉のみが開き、下車する人は居ないようだ。 「あれ?加嶋?」 声がする方を見ると、中学時代の先輩が運転席に座っていた。
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