沙保の気持ち

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「望月先輩ですか?」 中学の時の面影が残るその人は、正解!と言わんばかりの満面の笑みで、グッドサインを出した。 「ところで加嶋、乗るの?乗らないの?」 先輩に言われ、時刻を見ると出発時間を指していた。 「乗ります。」 沙保は慌ててバスに乗り込んだ。 「あれ?先輩...名前。」 車内に表示されている運転士の名前は、 「朝倉真(アサクラマコト)」 だった。 「あぁ、今は朝倉。望月は旧姓。3年前に結婚して、旦那さんの連れ子を含めた3人のママをやってまーす。」 そう言った先輩の表情は眩しかった。 「ところで、加嶋はどうして帰ってきたんだ?長期休みでもないよな?」 先輩の言葉に何も言えずに黙り込んでしまい、二人はそのまま無言になってしまった。 バスはそのまま走り続け、終点まで誰も乗せなかった。 「...ありがとうございました。」 沙保は力無くそう言いながらバスを降りようとした。 「...加嶋。たまには立ち止まる事も大切だ。ゆっくり田舎を満喫しなよ。」 先輩はそう言って再び走り出した。 沙保の実家へは、そこからまた新たに別のバスへ乗り継ぎが必要だったが、沙保はそのバスには乗らずにそのまま当ても無く歩き始めた。 ここは田舎唯一の商店街がある場所。 といっても、簡易郵便局、診療所と薬局。食料品、衣類、雑貨と何でも揃うスーパー。そして、保育園と小中学校が一緒になった大きな校舎があるだけで、直径2キロ以内に全て収まってしまう位の小さな商店街だった。 その商店街の中心を流れる川に沿って歩くと、あっという間に商店街から出てしまい、周りはまた田畑が並ぶ閑散とした風景に変わりつつあった。 川に小さな石ころを投げてみる。 チョポン... も一つ投げてみる。 チョポン... 流れが穏やかなその川は、一瞬、水面を激しく揺らすがすぐに落ち着きを取り戻した。 「はぁ。私、何やってるんだろ。」 沙保はまた、深いため息をついた。
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