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先ずは、それから訊いてみた。
彼女は少しはにかみながら答えた。
「この度、親衛隊の副隊長に任命されましてね」
おめでとうございますと祝う。
すると彼女は嬉しそうに微笑んだ。
素直で純朴なイメージが濃くなる。
先程まで厳しい眼光で木偶を打っていた女性と同一人物には見えなかった。
こちらの驚きを余所に、彼女は逆の足を壁に掛け直して体を伸ばす。
「既にケッセルリンク様が副隊長を務めておりますから、私は二人目の副隊長と成ります」
何故に二人も副隊長が必要なのかと問いかける。
副隊長は一人居れば充分に思えたからだ。
「これからは部隊を三分割して作戦に挑む機会も出てくるだろうから、それへの対策です。それに頭狩りに遭遇した際には、リーダーシップが取れる者が多い程、部隊の態勢を整えやすいですからね。ピンチには備えておかなければなりません」
頭狩りとは部隊の指揮官を狙って行われる戦術である。
指揮官を撃ち取られれば部隊に命令を下す者が居なくなる。
そうすると兵士は、戦えば良いのか後退すれば良いのかすら分からなくなり混乱する。
時には、それが原因で部隊が壊滅することも少なくない。
それを防ぐ為に、階級順の指揮権を決めておくのが軍隊の常識なのだ。
親衛隊の順列はシュナイダー親衛隊長がトップで、次ぎにケッセルリンク副隊長が続く。
そして次ぎに続くのが、この度任命された彼女アビゲイル副隊長と成るのだろう。
「まあ、まだまだ半人前なので、副副隊長見たいなもんですがね」
このアビゲイルと言う女性は、何処までも謙虚であると感じた。
大分話は変わるが二つ目の質問をした。
新たな質問に対してアビゲイル副隊長はストレッチを続けながらキョトンとしていた。
「近衛隊について聞きたいと……?」
何故に親衛隊の自分に近衛隊のことを訊くのか疑問に感じている様子だった。
こちらが理由を述べると直ぐに納得する。
「ああ、なるほど。隊の部外者のほうが客観的に見えるからなんですね。奥が深い考えです」
アビゲイル副隊長は感心している。
「そもそも何故に親衛隊が有るのに近衛隊が必要かですって?」
素朴な質問だった。
親衛隊も近衛隊も同じ意味合いの部隊だと思うからだ。
どちらも魔王に近い部隊だと思う。
二つある理由が分からなかった。
こう言う軍事的な疑問点は、やはり軍人に訊くのが一番早いだろう。
「まず言いますと、親衛隊と近衛隊の大きな違いは、親衛隊はダークエルフ族だけで結成されております」
石壁に掛けていた踵を戻したアビゲイル副隊長が両足を揃えて爪先だけてぴょんぴょんと跳ね始める。
爪先だけの軽い跳躍だったが、その高さは1メートル程有った。
かなり軽やかで、しなやかなバネである。
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