第0話【入浴のプロローグ】

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第0話【入浴のプロローグ】

魔王城には広い大浴場がある。 大理石の床。室内なのに高い天井には、眩い星が複数煌めき天空を模倣していた。 更に壁も無い。見渡す限りの地平線が広がっている。 ―――ように、見えるだけだ。 魔法の建築物である。 直径15メートルはある巨大な湯船は露天のような岩で囲まれ背後の大岩にはお湯が流れ出る滝まで備えているのだ。 数代前の古い魔王が大変な風呂好きだった為に増築された超大浴場である。 現在の新魔王も気に入っているために、毎日のように足を運んでは堪能していた。 そして今日も魔王は一人で湯船に浸かりながらリラックスしている。 ついつい鼻歌を奏でてしまうぐらいにだ。 そんな感じでのびのびと魔王が入浴していると、入り口の暖簾をくぐって人影が入って来る。 誰かと思った魔王は湯煙に霞んだ人影を仰視した。 それは、ボッ・キュン・ボンなシルエットの女性であった。 その女性の人影は、長い金髪をタオルで巻き、誘惑的な裸体の前だけをタオルで隠しながら湯船に歩み寄る。 入浴中の魔王には気付いていない様子であった。 湯船の前に立つ女性がお湯を探る。 その距離まで来ると魔王は女性が誰なのかハッキリと分かった。 宮廷魔術師のマチュピチュ・ウンカラ長官(25歳独身)であった。 彼女はド近眼である。それが今は眼鏡を外している。 普段は牛乳瓶の底のような眼鏡を掛けているぐらいだから、裸眼では入浴中の魔王すら発見出来ないのだろう。 それにしてもマチュピチュの素顔を魔王は初めて見た。 素朴だが、それ故に平均点の高い美形であった。 ややタレ目で優しい瞳をしている。 だが、魔王はマチュピチュと馬が遭わないと感じていた。 真面目なマチュピチュ長官は何かと魔王の乱雑な行動を見ては突っ掛かって来るからだ。 なので顔を遭わせたくない。 魔王は湯の中を、こそこそと逃げ回り隠れた。 顔を遭わせないように滝が流れ出る大岩の陰に移動して潜む。息を殺して気配も消す。 彼女は内股に揃えた両膝を曲げながらしゃがむと、湯船に片手を伸ばして温度を確かめる。 「いい感じの適温ね」 そう述べてから片足から順々に湯船へ入っていった。 そして、先程まで魔王が居た場所まで移動してから肩まで浸かり寛ぐ。 そのポイントが、この浴場でのベストポジションなのだろう。 「ふぅ~、いいお湯だこと―――」 マチュピチュが寛いでいると再び暖簾が揺れた。 二人の女性が話ながら入って来る。 「アビゲイルは凄いわね。その腹筋、シックスパックってやつじゃないの」 「私はイグニット様のほうが凄いと思いますよ」 「何が、私は腹筋なんて割れてないわよ」 「違います、胸ですよ……」 二人の女性は、まだ若い。 種族が一緒なのか二人とも褐色の肌をしている。 ダークエルフ族だ。 「胸……?」 「そう、その胸ですよ。もうイグニット様は私より年下なのに、何故にそんなボインボインなんですか?」 「こ、これは魔王さまから血肉を分け与えて貰った影響なのよ……」 「羨ましい……」 ショートヘアーのアビゲイルは己の貧乳をタオルで隠しながら隣の銀髪ワンレン女性の豊満な胸元を羨ましそうに眺めていた。 「ちょっとあんまりジロジロ見ないでよ……アビゲイル」 連れの視線を恥ずかしがった豊満なイグニットが、そそくさと逃げるように湯船へ入った。 肩まで湯に浸かって注目の胸を隠す。 そして、先客のマチュピチュ長官に気が付いた。 「あら、マチュピチュ殿、いらっしゃったのですか」 豊満なイグニットがマチュピチュに挨拶を交わす。 その口調は連れと話している時とは違って丁寧なものだった。 友達と上司の差であろう。 「今晩は、イグニット秘書官殿にアビゲイル副隊長殿」 マチュピチュはド近眼の為に顔を見ても誰だか分からなかったが、声と口調で誰だか察したようだ。 そして目を細目ながら二人に近付く。 「ん~~~……」 マチュピチュは顔がくっ付きそうな距離で二人の胸元を見比べた。 「ああ、なるほど。右がアビゲイルさんで、左がイグニットさんね」 二人のダークエルフがムスリとした表情で言葉を揃える。 「「今、胸の大きさで、どっちがどっちなのか判断しましたね」」 貧乳と巨乳。どちらもコンプレックスのようだ。 悩みと言うのは人それぞれ別々なのだろう。 「隣の芝は青く見えるものね――」 マチュピチュが大人っぽく澄まして見せた。 暫く3名で湯船に浸かっていると、入り口の暖簾がまた揺れた。 4人目が入って来る。 「あらあら、先客がおりましたのねぇ」 次に入って来た女性の裸体を見て3名がげんなりと表情を濁す。 その理由は、彼女の胸の大きさであった。 新たに入って来た女性は先に入っていた3名よりも更に大人っぽいだけでなく、3名よりも胸が大きい。 豊満なイグニットよりも大きいのだ。 それは爆乳レベルを通り越して魔乳レベル。まるでスイカを二つ並べたような胸を有している。 他の3名がタオルを縦にして胸と股間を隠しながら浴場に入って来たのに、その女性はタオルが縦では胸の谷間しか隠せない為に2枚のタオルを横にして、大きすぎる胸と下半身を隠していた。 黒髪を束ねたタオルを含めると、1人だけタオルを3枚使っている。 「今晩は、マミー・レイス夫人……」 挨拶を返したマチュピチュも顔を引きつらせていた。 ド近眼の彼女にすらマミー・レイス夫人の魔乳はハッキリと見えているようだ。 それだけの超サイズなのだろう。 マミー・レイス夫人は3名の視線を気にもせず湯船に入る。 すると透けるような白い肌がピンクに染まっていく。 「本当に素晴らしいお湯加減ですわ」 言いながら額から流れた汗をタオルで拭くマミー・レイス夫人の仕草は色っぽい。 それは官能を感じるぐらいであった。 湯船に浸かるマミー・レイス夫人の魔乳を見詰めながら貧乳のアビゲイルが呟いた。 「オッパイって浮くんですね……。知らなかったです……」 寛ぐマミー・レイス夫人を余所に、何故か緊張する3名。 堂々たる魔乳の存在感が威圧しているのだろう。 女たちにプレッシャーを掛けている。 4名が静かにお湯に浸かっていると、脱衣場から騒がしい声が聞こえてきた。はしゃぐ声色である。 「いっくぞぉ~~~!」 その騒がしい声の主が勢い良く浴室に飛び込んで来た。 「ヒャッハー、風呂だ風呂だ!」 はしゃぎながら駆け込んできた女性はふさふさでパープルな長髪を他の人とは違いタオルで束ねていない。タオルで裸体を隠してもいない。 そして、タオルを頭上でブンブンと振り回しながら跳躍すると、空中で胡座をかくようなポーズで湯船に飛び込んだ。 高い水しぶきが上がると先に入って居た4名を津波が襲う。 「ぷはぁ~、いい湯だな~」 湯の中から顔を跳ね出した女が呑気なことを言っているが、津波の被害を受けた者たちは額の血管をヒク付かせながら怒りに堪えていた。 気にもせずに涼しい顔をしているのはマミー・レイス夫人だけである。 怒りを堪えて声を震わす金髪のマチュピチュが言った。 「メリル・ダリル隊長、何をするんですか!」 「え……?」 不思議そうな表情を浮かべるメリル・ダリルは小首を傾げる。 日焼けした肌を岩に預けると背もたれのように使いながら惚けているのだ。 何か悪いことでもしたのかと訊きたげな態度であった。 「元気が溢れているのは決行ですが、お風呂では、走らず、泳かず、騒がずが鉄則ですよ!」 「なんでよ?」 メリル・ダリルは眉間に皺を寄せながら聞き直す。本気でマナーを理解していないようだ。 「脱衣場の壁に書かれていたでしょうが!」 「ああ、すまん。あたいは字が読めんし書けんのだ。何せ蛮族の出だからな」 「それでもマナーぐらい心得ていてください!」 「マナーって、食べ物?」 「違いますよ!」 「美味しいの?」 「だから食べ物じゃあないって言ってるでしょ!!」 「な~んだ、詰まらない……」 能天気キャラのメリル・ダリルは口を尖らせ不貞腐れた。 「もう、話にならないわ!」 そう怒鳴ってから立ち上がったマチュピチュは湯船から上がる。 そのまま浴室から出ていこうと暖簾をくぐろうとした。 「いたッ!」 しかし、何かにぶつかり転倒してしまう。 熟れたお尻を大理石に打ち付け尻餅をついた。 「何よ、一体!?」 マチュピチュが尻餅を突いたまま見上げるが、そこには暖簾しか見当たらない。 否。良く見れば何かが浮いている。 白くて長方形の物。 「タオル……?」 ド近眼でも分かった。宙に浮いているのは1枚のタオルだった。 「なんでタオルが浮いてるのよ?」 金髪のマチュピチュが疑問を口に出すと、後方の湯船から能天気キャラのメリル・ダリルが声を掛けて来た。 「おーい、何してんだよ。恥ずかしがってないで早く入って来いよ」 どうやらメリル・ダリルはマチュピチュにではなく別の誰かに言っているようだ。 マチュピチュが前を向きな押すと、宙に浮くタオルがモジモジと揺れていた。 「もしかして、そこに居るのはリカさんですか?」 声による返答は無いが、代わりにマチュピチュの両脇が何かに抱えられる。 そのまま持ち上げられた。 「あわあわわ!」 見えない何かに起こされたマチュピチュは、目をパチクリさせるばかりだった。 すると目の前のタオルがペコリと折れ曲がる。 ぶつかったことへの謝罪の一礼のようだった。 そして宙に浮くタオルは湯船のほうに向かって移動して行った。 「リカ。何を恥ずかしがってんだよ。お前の姿は見えないんだから恥ずかしがらなくたっていいだろうが」 メリル・ダリルが言う通り、リカたる人物はまったく見えない透明人間だった。 姿が誰にも見えていない。 故に全裸を恥ずかしがる理由が見つからない。 透明人間のリカは無言のまま湯船に入る。 透明だが体積はちゃんとあるようだ。湯船の中にお湯の無い不自然な人型の空間が作られた。 そこにリカたる人物が居るのだと皆に報せている。 金髪のマチュピチュが浴室を出て行ってから暫くすると、新たなる人物たちが入って来た。 「わーい、わーい、大浴場だ!」 「そうね、大浴場ね……」 10歳ぐらいだろうか、ショートボブの少女が二人。顔の作りは一緒だがテンションが真逆の双子だった。 マミー・レイス夫人が言う。 「あらあら、今日は千客萬来ね。皆さんが勢揃いですわ」 双子の片割れが湯船に向かって走り出す。 「いっくぞ~~」 掛け声と共にジャンプした双子の片割れが湯船に着水すると思われた刹那である。 メリル・ダリルが立ち上り上段廻し蹴りを繰り出した。 「おらッ!」 「げふっ!」 アスリートのように身体を鍛えているメリル・ダリルのキックに打ち返された少女は回転しながら飛んで行く。 そのままテンション低めの少女の隣に墜落した。 「何するのよ。この乱暴女が!!」 ノーダメージなのか素早く立ち上がるおかっぱ少女。 その隣で双子の少女は他人事のような冷めた視線で見守っていた。 メリル・ダリルが偉そうに言う。 「知らねーのか、ラズベリー!」 「何をさ!?」 「風呂場は走っちゃ駄目なんだぜ!」 「知らないわ、そんなこと!」 「それに、湯船には飛びこんじゃ駄目らしいぞ!」 「えっ、マジ!!」 「泳ぐのも駄目らしいぞ!」 「そんな馬鹿なぁ!?」 「さっきマチュピチュの野郎が言ってたから間違いないぜ!」 2名のやり取りを無視して、ゆっくりとした動作で浴槽に入ろうとしている双子の片割れが冷めた口調で言った。 「なんだ、ソースはマチュピチュ長官か……」 メリル・ダリルが湯船に浸かったおかっぱ頭を鷲掴んでからぐしゃぐしゃと掻き回す。 それから詰まらなそうに言った。 「ブルーベリー。お前はおねぇーちゃんと違って乗りが悪いな。いいや、悪すぎる。そう言う奴は、こうだ、こうだ!」 「やーめーてーよー……」 口では嫌がるが抵抗らしい抵抗は見せないおかっぱ少女。 妹ブルーベリーが苛められているのを気にもしない姉ラズベリーも湯船に浸かる。 「ふぅ~~、極楽極楽……」 メリル・ダリルから解放された妹が言う。 「ラズベリー、ババ臭いわ」 「ほっといてよ、ブルーベリー」 「その歳からそれだと、マチュピチュ長官みたいに早く老けるわよ」 「それは、怖いわね……」 双子がアホな会話を繰り広げていると、暖簾が揺れて再び金髪のマチュピチュ・ウンカラが浴場に入って来た。 だが、先程と様子が違う。やたらと明るく振る舞っていた。 「ハロー、エブリバディー。皆さん、ハッピーかなー」 人格が入れ替わったかのようなマチュピチュに7名全員がキョトンとしていた。 マチュピチュは長官だけあって堅物で知られた真面目な人物だ。 このようにハッピーな思考を持っていない。 「みんな、ハッピーかい~!?」 あまりの変貌を疑問視したマミー・レイス夫人が代表として訊いた。 「マチュピチュさん、何か悪いものでも拾い食いしたのですか?」 「ノーノーノー、拾い食いはいけませんデス。ばっちいデースねェ!」 踊るようにしゃべるマチュピチュ。 すると暖簾が勢い良く揺れて、もう一人のマチュピチュが飛び込んで来た。 「ちょっとキャロルさん、何してるのよ!」 マチュピチュはマチュピチュに駆け寄ると両肩をガッチリ掴む。 「勝手に私の姿を模倣しないでください!」 「何故デースかー?」 「仕事でなら模倣してもいいですが、プライベートでは駄目よ駄目!」 「理由を述べなさいデース」 「せめて恥ずかしい振る舞いは避けてください!」 「オウ、イエース。了解しましたデス。もう魔キング様の前ではキスを迫ったり、お又を開いたりはしませんデース!」 「もうって、したことあるんか!!」 「イエース!」 「私の姿で……?」 「ユーの姿でデース!」 「本当に……?」 「何度かありマース!」 「きゃあーーーーーーーーーー!!!」 悲鳴と共にマチュピチュが偽マチュピチュに掴み掛かった。 2名は揉み合いながら湯船に落ちる。 先に入って居た7名に再び津波が襲い掛かった。 「今日はこればかりね……」 「そうですね、イグニット様……」 豊満なイグニットと貧乳のアビゲイルがあきれていた。 やがてマチュピチュも落ち着きを取り戻して9名は横一列に並んでお風呂に浸かる。 マチュピチュも体が冷えたと言って湯に浸かり直していた。 並びはこうだ──。 右からマミー・レイス夫人、アビゲイル福隊長、秘書官イグニット、近衛隊員リカ、近衛隊長メリル・ダリル、双子のラズベリーとブルーベリー、宮廷魔術師長官マチュピチュ・ウンカラ、情報員キャロル。 そして滝の流れ出る岩の裏に隠れて居る魔王の順で並んでいた。 暫くはリラックス状態の沈黙が続いたが、マチュピチュに化けたままのキャロルが静寂を劇的な台詞で打ち破る。 「やっぱりユーたちは、魔キング様を愛しているのデースか?」 8名の脳天に衝撃の稲妻が落ちた。 キャロル以外全員が同時に左向け左で頭の向きを変えるとキャロルを凝視した。 この一言を切っ掛けに、女たちの戦いが始まるのであった。 「ちょっ、ちょっ、ちょっ、ちょっと、何を言い出すの。そんな訳ないでしょ!!」 「そ、そ、そ、そ、そうだぞキャロル。突然何を言い出しやがるんだ!!」 マチュピチュとメリル・ダリルが否定する。 どうやらこの2名はツンデレ系らしい。 「キャロルさんはストレートですね……」 そう言いながら赤面しているのは貧乳のアビゲイルだった。 図星らしく、謙虚に照れている。 「!!!!!ッ」 もう1名、派手に照れている者が居た。透明人間のリカである。 見えない体を何度も何度も左右に振りながら湯船を揺らしていた。 「私は旦那様を愛しておりますわ」 「わたくしも、魔王様の為なら死ねます!」 きっぱりと愛情を語れるのはゆるふわ系のマミー・レイス夫人とクールキャラのイグニットだけだった。 2名は睨み合い視線で火花を散らす。 ラズベリーは少し悩んでいる。 「そりゃ~、魔王様を好きだけど、私に取ってはお兄ちゃん的な存在だしね」 「ラズベリーはブラコンだからね」 「そう言うブルーベリーはどうなの?」 「私は魔王お兄ちゃんと手を繋いだだけで妊娠出来るわ!」 「珍しく自信満々ね……」 双子のアホな会話を余所に、貧乳のアビゲイルがキャロルに逆質問をした。 「そう言うキャロルさんは、どうなのですか?」 「ミー?」 マチュピチュの姿で自分の顔を指差すキャロル。 他の女性たちが、うんうんと揃って頷いていた。 キャロルは天井の星空を眺めながら暫し考える。 そして結論が出たのか何時もの乗りで答えた。 「ミーも魔キング様をアイ・ラブ・ユー、デスね」 考えるまでもないだろうと皆が溜め息を漏らす。 彼女たちにしてみれば、魔王は絶対的な恋愛対象。 他の者たちを蹴落としてでも手に入れたい理想の異性だ。 そもそも悩み考える余地は無い。 だが、再びキャロルが問題発言をぶちかます。 「でもデス。普段はナイトに成ると魔キング様に化けてフラストレーションを消去してますからOKなのデース」 「「「「「「「!!!!!!!」」」」」」」 勢い良く8名が立ち上がると、胸もあそこも隠さずにキャロルを囲むように移動した。 輪になりキャロルを血走った眼で見下ろしながら順々に問う。 「それは、どう言うことですの!?」 「お兄ちゃんに化けられるってこと!?」 「お兄ちゃんを模倣できるのね!」 「マジかよ、それ!?」 「ならば今ここで変身してくださいませ!?」 「勿論全裸ですよね。だってここはお風呂場ですもの!!」 「落ち着きなさいアビゲイル。そのぐらいキャロル殿だって空気が読めますわ!!」 「!ッ!ッ!ッ」 狼狽えながらキョロキョロと見回していたキャロルも8名の熱意に押されて模倣変身を承諾する。 キャロルを前に8名が行儀良く整列していた。 中にはお湯の中で正座をしている者もいるぐらいだった。 全員が全員、期待に胸を踊らせている。 魔王の全裸を、得に股間を鑑賞したいのだ。 「では、でーは、魔キング様にチェンジしますデース!」 「待ってました、大頭領!」 メリル・ダリルがちゃかすと同時にマチュピチュに化けていたキャロルの外見が魔王の姿に変わって行く。 その姿は全裸。女たちが願った全裸である。 そして女たちの視線は逞しい肉体よりも神々しい股間に集まっていた。 「これが旦那様のピーなのね!」 「あら、マミー・レイス殿も初めて御覧になられるのね……」 「そう言うマチュピチュだって初めて見るんだろ。俺も、初めて見るけどさ……。それにしても、デカイな……。鼻血が……」 「!ッ!ッ!ッ!ッ!ッ!ッ」 「イグニット様も初めてご覧になられますか……?」 「ええ、アビゲイル……。小さなころにお父様や兄様のを見たことがありましたが、ここまでご立派ではなかったわ……。想像以上よ!」 「ブルーベリー、今後の参考のために良く見ておくのよ。勉強になるわ。これが大人サイズなのね……」 「いいえ、ラズベリー。皆の反応を見るからに、これはきっと大人サイズよりデカイのよ。きっと魔王サイズよ……。とにかく、勉強になるわ……」 「なんか、恥ずかしいデス。これぐらいでラストにしてくださいデース……」 そう述べるとキャロルは逃げるように湯船を上がる。 そのまま脱衣場に逃げ込んだ。 その後ろを魔王本人も、何事も無かったように付いて行った。 豊満なイグニットが気付く。 「あれ、いま魔王様が二人と言いますか、キャロル殿が二人居ませんでしたか?」 「何を言ってるのですか、イグニット様。湯にのぼせたのではありませんか?」 「そうなのかしらね……」 目を擦る豊満なイグニットを笑い飛ばす貧乳のアビゲイル。 イグニットは言われるがままに納得した。 今日は凄い物が見れたから満足しているのだろう。 もう、細かいことはどうでも良くなっている。 そして8名は、のぼせるまでお風呂に浸かっていたとさ。 【プロローグ・完】 本編に続く。
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