第9話《未熟な努力家にインタビュー》

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「親衛隊員である私が述べるのもなんなのですが、全親衛隊員は、魔地域に散らばる各ダークエルフ族の中から集められたエリート中のエリート48名の部隊なのですよ」 爪先での跳躍を続けながらアビゲイル副隊長は話し続ける。 その息は僅かにも崩れない。 「剣の腕前だけでなく、戦術や魔術にも長けております。全てのステータスがトップクラス。それが親衛隊員に選ばれる条件なのです」 爪先の力だけで跳躍していたアビゲイル副隊長が、着地の際に深く膝を曲げてしゃがみ込む。 そこから再び高く真上に跳躍する。 今度は2メートル近くの垂直飛びとなり、それを繰り返し始める。 その跳躍で灰色のショートヘアーが、何度も天井に付きそうになっていた。 「それと親衛隊の任務は魔王様の護衛だけでなく、一般の兵士を戦場で指揮したり、魔王城の警備兵の責任者的存在でもあります。多種多様な職務を任されております」 アビゲイル副隊長は言葉を言い終わると一段と深く屈伸する。 そして今まで以上の跳躍を見せた。 それから頭が天井に付く刹那に、細い体躯を丸めて首裏を天井に付けて止まる。 そして落下直後に両手で天井を押すと、更に勢い良く急降下した。 超スピードで降下したアビゲイル副隊長は、両足で着地せずに股の股関節を180度に開いて静かに着陸した。 そのまま上半身を前に倒して革鎧を装着した胸をペタリと床に付ける。 踵を壁に掛けていた時にも思ったが、この運動を見ても更に思う。 彼女はかなり柔軟な体躯を有していると――。 まさに軟体生物のようだった。 アビゲイル副隊長は、シャープな顎先を床に付けながら語る。 「それに比べて近衛隊の任務は単純明快です」 単純と言う言葉に首を傾げていると、アビゲイル副隊長は詳しい説明を続けた。 「近衛隊の任務はただ一つです。それは魔王様の側を離れないことです」 魔王本人の警備が専門なのかと訊く。 「その通りです。魔王様に迫る危険を直前で回避するのが彼らの務めです。露払いと言いましたら正しいでしょうかね」 だが、今回の魔王はスリルを好むところがあると意見した。 おそらく露払いなんて必要無いだろう。 刺客ですら自分で受け止めたがるだろう。 ──間違いない。 それにはアビゲイル副隊長も同意見だと合致する。 「そうなんですよね。特に戦闘には貪欲なところが見られます」 今回の魔王は、自分から喧嘩を売るタイプだ。 「うちの隊長との件もそうですし、近衛隊長殿との件もそうですよね。聞けば魔王様から仕掛けたとか……」 近衛隊長との事件は目撃したのかと問うと、アビゲイル副隊長は柔軟運動を中断して面を上げる。 その表情は残念がっていた。
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