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五年後
教授が言うには、人間の細胞は半年で全て入れ替わってしまうらしい。つまり、五年後の君の体に、もう私は住んでいないと言うことになる。
だから、この手紙を書いておくよ。
君は忘れてしまっているだろうが、出産の後に私と妻は記憶を消すナノマシンを飲むことにした。そして、それを飲む前にこの手紙を書かせてもらっているんだ。
こちらの妻は今、分娩室に入って、子供を産むために痛みと戦っている。僕も早く妻のそばに行ってやりたい。だから、要件は手短に話すよ。
今の君の体に流れる悲しい気持ち、心中をお察しする。
私もどうなるか何度も想像した。
でも、どう考えても悲劇しか起きないことは今の五年前の私でも分かる。
『私が何の記憶を消した』のかは、法律上、君に口添えすることはできないから、君に一つだけ質問をする。
たった今、看護師さんが私の元へ、妻の出産の報告に来たよ。彼女は今頃、きっと私よりも嬉しい気持ちで生まれてきた子を眺めていると思うよ。
君には申し訳ないが、こんな手紙を書いている場合ではないんだ。彼女の元に急がないといけないんだ。
君も、こんな手紙を読んでいる場合じゃないだろ? 君よりもその子の死を悲しんでいる人がそばにいるはずだ。君も、彼女の元に急がないといけないだろ?
君は僕が何の記憶を消すのかわからないだろうが、でも、言っておきたいのは、それは確かに君自身が選んだ道なんだよ。
『君が愛している人は誰だい?』
僕が君に言いたいのはこれだけだよ。あとは分かるだろ? これは、僕と君が患ってしまった不治の病なんだから。
あと、教授からの伝言を伝えおく。
運命を楽しめ、親友。
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