お人好し

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「わたしだって一杯あった」  僕は何と言っていいか解らない。頭を左右に振り続けていた。するとトイレの外から人の話し声が聞こえた。助かった。 「こんなところの掃除なんて嫌だよな」  3年生の声だ。 「今日は掃除サボって帰ろうよ」 「そうだな。こんなところ誰も使わないし」  待って、帰らないでくれ。僕はまだやりたいことがいっぱいあるんだ。女の子とも付き合ってみたいし、有名な大学にも行きたい。設計士になりたいという夢もある。大好きな両親に親孝行だってしなくちゃいけないし、大人になったら子供だって欲しい。色々なことが頭に浮かぶ。まだいなくなる訳にはいかない。そう考えていたら急に悲しくなった。 「君だって、やりたいことあったんだろう。何となく解るよ」 「えっ。わたし?」 「うん、死にたくなかったんだろう」 「・・・・」 「僕を連れていけば満足なの?」  僕は気が抜けたようになりながら話を続けた。その時、外から先生の声がした。 「こら、きちんと掃除しなさい」 「はーい」  ドアが開く。こんどこそ本当に助かった。僕は先輩たちに抱きついた。 「あれ、なんでこんなところで泣いてるの?」  そうか、僕泣いていたんだ。怨霊の気持ちになったら自然と悲しくなった。その時後ろから声がした。 「有難う。瑛太君って相変わらず、お人好しだね。さよなら、有難う」  僕はまた涙が流れた。 終わり。
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