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背水の陣は成功するか否か
以前書いたものです。
「一次創作お題ったー!」で生成されたお題を使用しました。
お題は『初めてついた嘘』です。
相手の気持ちをはかるためについたはずの嘘が、逆に利用された?
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「あの子、お前のこと好きなんだってよ」
危険な賭けだった。
最悪、おれだけが悪者となって終わるだけ。
それでも、友達ポジションに甘んじたままの現状から脱却するにはこれしかないと思った。
多分、相当に追い込まれているのだろう。
「……ふーん」
クールが基本な想い人は、やはりクールに相槌を打った。
「嬉しくない? ほら、あの子って高嶺の花とか言われてるほどじゃん?」
普段、誰それが好きという話は全く聞かずとも、ネットにあふれる女性画像達に「この胸は好み」だの「尻の形がたまらない」だのと話題にしている姿を見ているから、人気のある女子から好かれていると知れば少なからず好意的な反応を取るだろうと踏んでいた。
それは同時に、自らの恋に終止符を打ち込まれるようなものだが……もはや、構わない。
――そうか。一ミリの期待さえも砕かせるための嘘だったのかも知れない。
「……そうだな。嬉しいかな」
こちらをじっと見つめていたかと思うと、目元を緩めてそう返してきた。
「そ、う。やっぱり、そうだよな」
――覚悟していたとはいえ、つらい。
いや、覚悟が足りなかったんだ。どれくらい彼への思いを秘めていたか、理解していたようでできていなかった。
「じゃ、じゃあ、もういっそ告白しちゃえば? いやーうらやましいなぁ。でも絶対お似合いのカップルになるだろうな、うん」
頭をかくフリをして俯く。なにを言っているのかおれ自身もよくわからない。口を開いていないとみっともなく泣いてしまいそうなことだけは自覚していた。
身から出た錆。今の状態にふさわしすぎる言葉だ。
「そんなにうらやましいのか」
聞こえてくる声は、どこか愉快そうだった。
「全く、わざわざ下手な嘘なんかつかなくてもいいのに」
よく、意味がわからなかった。
名前を呼ばれて、反射的に顔を上げてしまう。
漫画だらけの見慣れた本棚が、片目に映る。
あれ、どうして片目だけ?
もう片目には……また見慣れた、彼の顔、いや目が、見え……。
「はは、見事に固まってら」
口の片端を少しだけ持ち上げた、友人得意の笑いを見た瞬間――急激に時間が回り始めた。
言葉にならない声が唇からただこぼれる。恐怖に包まれたようにじりじりと後ずさって、勉強机の椅子にすぐ背中を塞がれてしまった。
どうして彼にいきなりキスをされたんだ?
どうしてずっと夢で見るだけだった光景が、前触れもなくやってきたんだ?
「半ギレでもして、嬉しいなんて言うなとか言ってくれるかと思ったのに、あっさり身を引くんだもんなぁ」
全く事態を飲み込めない自分をよそに、彼はやれやれと溜め息をついている。
「俺を試そうとか、お前が一番苦手なことをわざわざやらなくていいよ。だったら素直にぶつかってこいっての」
な? と小首をかしげて、彼はいたずらっぽく笑ってみせる。
バレていた、とでも言うのか。
あんなに必死にひた隠しにしていたはずの気持ちを、この男はとっくに見破っていたと、いうのか。
「バレてない。そう思ってた?」
頬をするりと撫でる感触が、まぎれもない現実なのだと知らしめてくる。
「知ってたよ。俺はずっと、お前の気持ちに気づいてたんだ」
女子と、恋する人間誰もが見惚れる笑顔が近づいてくる。
独り占めしているのは、他の誰でもない……おれ、ただひとり。
そう飲み込んだ瞬間、自然とまぶたが下りていた。
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