きっと死刑宣告

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きっと死刑宣告

#一次創作BL版深夜の真剣120分一本勝負 のお題に挑戦しました。 『やめてって言ったでしょ』『コンプレックス』です。 120分+若干オーバーで完成です。 --------  なんだよこれ。どういうことだよ。  口にしていたつもりが、出なかった。喉から先が詰まって、苦しささえ覚えた。 「どういう、ことなの……?」  目の前で彼女が青ざめている。その言葉の意味は多分違う。 「あれ、意味わからなかった?」  彼女も自分も同じ表情をしているはずだ。  彼だけが、間違い探しのように明朗な笑みを浮かべている。 「君が浮気してるんじゃないかって疑ってる相手は、俺だったってこと」 「っうそ……うそ……! だってあなた、女がいるって……!」  そう。嘘だ。こいつのことは大学を卒業してからも大切な親友のままだけど、そんな付き合いは一度もしていない。さらに言えば他の女だっていない。ずっと彼女だけを想ってきた。初めてできた恋人だなんだ。  今夜も、彼女との幸せな時間を過ごせるはずだった。週末の予定をどうするか決めて、気持ちはそこに向かっていたはずだった。  どうしていきなりこんな展開になった? 高い場所から突き落とされた? 「それが嘘。ついでに君に見せた写真も実は合成なんだよねぇ」  スマホを取り出した親友は、実に愉快そうだった。真っ赤になる彼女が滑稽に映ってしまうくらいの余裕を見せている。 「……いい加減にしろよ」  苦しさが、胸元から湧き上がる熱で溶けた。  反論もろくにできないままでいられない。彼女の誤解を解けるのは自分しかいない。 「さっきからでたらめばっか言うなよ! ふざけんな!」  胸ぐらを掴み上げても、彼の表情は変わらない。堪えようのない恐怖も生まれて、もはや彼がどんな存在なのかわからない。 「でたらめなんかじゃないよ? 俺は本当におまえを好きだし」 「好きだったらこんな馬鹿げたことしねえだろ!」  掴み上げたままの拳が細かく震える。今まであんなに仲がよかったのに。誰よりも理解者でいてくれてたのに! 「するに決まってるだろ? 俺とお前は好き合ってるんだから」 「やめろって言ってんだよその嘘を!」 「嘘じゃないって言ってるのになぁ」  再び、喉の奥が詰まった。唇が塞がれている。いやというほど覚えのある感触だ。それを今、目の前の男から——  胸ぐらを解放して、思いきり彼を突き飛ばす。認識したくないのに、確かにあった感触が容赦なく現実と突きつけてくる。  同時に、後ろの方で耳慣れた足音が遠ざかっていくのが聞こえた。慌てて振り返っても、どこかで曲がってしまったのか姿はない。なくなってしまった。 「やっと彼女もわかってくれたみたいだねぇ。いやあ、長かったよ。……本当に」  身体中に、雑多に物を詰め込まれたようだった。吐き出す手段も、浮かばない。  視界が歪む。堪えたいのに地面さえも映らなくなって、頬を、口元を押さえる指を、涙が何度もなぞっていく。本当にこれは現実なのか?  顎をすくい上げられた。ある程度戻ってきた視界のすぐ先で、親友のはずの男がぞっとするほど綺麗に笑っていた。 「大学卒業したらこれだから、本当にまいったよ。やっぱり近くで見張ってないと駄目だね。お前はとっても人気者だから」  自分の知らないところで、そもそも問題のわからない答え合わせをされている気分だった。考えないといけないのに、できない。 「あんな女、お前にふさわしいわけないだろ? 一番は俺。お前のこと絶対幸せにしてやれるって、あんなに一緒にいたのにわからなかった?」  宝物に触れるように、両方の頬を撫でられる。感情が流れ込んでくることを防げない。 「俺はお前の全部が好きだよ。誰にでも分け隔てなく優しいところも、相手をつい優先させちゃうところも、でもいざという時は前に出て守ってくれるところも、もちろん身体も全部……好き」  親指で、唇の表面をするりと撫ぜると、男の口元がさらに緩んだ。 「そういえばこのぷっくり気味の唇がコンプレックスだって言ってたっけ。俺からしたら全然そんなことないっていうか……いつも貪りたくてたまらなかったんだよ?」  そのまま迫ってくる瞳を、そのまま受け止めてしまった。ゆるく食まれて、舌であますところなく撫でられて、ついには口内に侵入されても、抵抗できなかった。  気力が、奪われていた。 「これで、お前はもう俺のものだね」  彼は、今まで見た中で最高にまぶしい笑顔を顔面に飾っていた。  死ぬまで、脳裏にこびりついて離れないような、笑顔だった。
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