94人が本棚に入れています
本棚に追加
図書準備室の扉を勢いよく開けると、私の鞄を片手に、不敵な笑みを浮かべた加賀美が立っていた。
「お早いお帰りで。んで、副部長様はどうしたいんだ?」
そう云って放り投げられた鞄を胸の前で受け止める。鞄を床に置いて中にある一眼レフのカメラを確認する。
「加賀美! 連絡先!!」
「へいへい。そう言うと思ってたよ。ほら、井上朔羅の住所。図書部の成美ちゃんから聴き出すの、苦労したんだぞ」
「え……まさか、ナンパはそのため?」
「そうだよ、テニス部の香織ちゃんは空振りだったけどな」
「な、何で……そんなこと」
目を見開く私の腕を掴んで加賀美が引っ張り上げる。その表情は正方形の窓から差し込む西陽でよく見えない。
「ま、まぁ……その話はまた後でな、とりあえず行けよ。朔ちゃんサンに会えるの今日が最後だぞ!」
茫然と立つ私の背中を押しながら、加賀美が図書準備室の扉へと手をかける。
「加賀美っ! 私っ」
振り返ろうとする私の背中を、加賀美がポンっと室外へと押しだした。
「いいから行け! 新聞は俺が作っておくから。あと、秘密の告白も無しにしておいてやる。言いたい言葉は……本人に直接言わないとな」
はにかむ加賀美の肩を殴り、私はカメラの入った鞄を肩に担いだ。
例え下手でも、伝わらなくても。
この気持ちを形に残したい。
その勇気をくれたのは、朔ちゃんがくれた一枚の油絵。
ポーチにはクマの便箋を。
胸の中には空色レターを。
心には目一杯の笑顔を詰め込んで。
私は、走り出した。
Fin
最初のコメントを投稿しよう!