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「おーい、また来てんぞー、ラブレター」
放課後の図書準備室。扉から迷惑そうな男の顔。
同じ新聞部の部長、加賀美が右手の紙を大袈裟にヒラつかせている。
「あー、朔ちゃんからの感想ね」
私は読みかけの小説を、ソファ脇の鞄に投げ入れた。
「ご意見箱の私的利用は認めていないぞ。それにソファで寝転ぶな! 仕事をしろ!」
お前は隣室の図書部でまた成美ちゃんのナンパですか? 盛るのもいいけど、そっちこそ仕事しろよ。
「これからするとこですよ、ぶちょーさん」
加賀美が不満そうに図書準備室のドアをピシャリと閉める。聴こえていた雑音が消え、不気味なほどの静寂に包まれる室内。
寝転がるソファは湿っぽい嫌な匂いがした。
だけど我慢できるのは、この角度から見える正方形の窓越しの空が好きだから。
昨日とはまるで違う青。
油絵みたいな、一瞬を切り取るキャンバス。
文化祭で初めて見た彼女の絵も、私の好きな青だった。
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