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「ほれ、ラブレター」
長机にピラッと置かれた、クマの絵が入った便箋。差出人はいつも同じ。直接喋ったことすらない美術部の朔ちゃん。
「サンキュー」
便箋を開くと、可愛い文字が控えめに並ぶ。
『心が洗われるような空でした。
イワシ雲も良いですね。
いつも素敵な写真ありがとうございます 朔 』
簡素なのに優しさが伝わる文面。
思わず頬が緩む。
「毎度毎度、よくもまぁ、飽きずに感想書いてくれるねー」
加賀美が嫌味っぽい口調で、便箋を覗き込もうとする。
「見るな!」
慌てて便箋を胸に押し付けて隠す。
「へいへい」と呆れた顔で加賀美はパソコンの前に座ると、そそくさと記事を書き始めた。
便箋をそっと折り畳んで、鞄の中のポーチのチャックを開ける。中にはぎっしり詰め込まれた、同じ柄の便箋が。
「朔ちゃんサンもさぁー、俺らと同いだろ? もうすぐ卒業じゃねーの?」
パソコンに顔を向けたまま、カタカタとキーを鳴らしながら、加賀美が少しだけ声を張った。
胸の奥がチクリと痛んで、私は誤魔化すように窓の向こう側に目を向ける。
「そうだよ」
正方形の窓から見える青は、数分前とは違う色をしていて、変わりやすい人の気持ちと似ている気がした。
加賀美の言いたい事は分かってた。
卒業を目前に控えて、きっとこのままじゃ後悔するんだろうなって、自覚もしてる。
私と朔ちゃんの関係。
それは実に不可思議で、他人にはきっと理解できない。
写真と手紙。
それが私たちを繋ぐ、唯一の絆だった。
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