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「はぁ、変なもん蹴った」
上靴の裏に柔らかな感触が残っている。
男の急所はどれくらいの衝撃に耐えられるのだろうか。まぁ、正当防衛だから気にしないでおこう。
「あ、凄い、また入賞してる!」
「さすが風景画の天才!」
図書準備室を命からがら逃げ出し、廊下を歩いていると掲示板の前で数人の女生徒が盛り上がっていた。
先週発表された国際絵画コンクールに、どうやらうちの生徒が入賞したらしい。
「いいなぁ、卒業後はフランスの学校に行くらしいよ」
「フランスで絵の勉強とかかっこよすぎ」
「努力家だもんね、井上さんって」
上靴がピタリと縫い付けられたみたいに、床から離れなかった。
不安定に揺れる心を制御するために、手の平を力一杯握りしめる。
この場から早く逃げたくて、全速力で廊下を走りだしていた。
賞賛される渦中の「井上さん」とは、間違いなく朔ちゃんの事だった。
そして私は。
友達だなんて思いながら。
朔ちゃんの事を何も知らない大馬鹿者だった。
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