青空パレット

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朔ちゃんの事を知ったのは、一年の文化祭の時。 美術部の個性的な絵がクラスで話題になっていて、文化祭の店番を抜け出して展示されている多目的室に向かった。 踏み入れた多目的室は熱帯の草花みたいに色とりどりの世界。 だけどその中で、朔ちゃんの絵だけが切り取られたようだった。 そこには何の変哲も無い空が描かれていて。 私は思わずその絵に指で触れた。 油絵独特の凹凸が指の腹を押して、何度も重ねた色の言葉が指先から流れ込む。 深い深い青が、淡い淡い雲が。 私の心に語りかけてくるみたいに。 作者が、この絵に込めた想いに触れた気がして。ずっと手の届かないはずだと思っていた空にも、初めて届いた気がした。 鞄に入れてあった空を撮影した写真を無心で取り出した。その中でも一番お気に入りの写真の裏にたった一行だけの手紙を書いて、油絵と額の隙間に差し込んだ。 誰かに自分の気持ちを書くのは生まれて初めてだった。 『私の大好きな青でした。 仁科』
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