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 タクシーの後部座席から端正な顔を前方へと向け、からだを乗り出している女は、タクシーのフロントウインドゥに映る渋滞に向け言った。 「運転手さん、他に道はないの? 飛行機に乗らなくちゃならないのに! あたしの人生が掛かってるんだから。何か知恵を絞ってよ!」  昼下がり、営業帰りに流していたタクシーをやっと捕まえられたというのに、チケットに書かれている予定時刻に間に合いそうもないことに焦っている女は、運転手に無理な注文をつけ苛立ちを紛らわそうとしているようだった。  運転手は、「無理言わないでくださいよ。見りゃあわかるでしょ。空でも飛ばない限り無理なんですよ」と言った。  女は「そんなのわかってるわよ。その空に飛び立つ為に、今空港に向かってるんじゃない」そう言って、よそ行きの洒落たスーツ姿を後部座席へ深々と沈め座りなおした。
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