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 火葬場に着くと、職員たちが予約された火葬炉に彼女の入った棺を運び込み、品の良いスーツ姿の職員が、喪主である夫に火葬前後の説明を丁寧に説明して炉の鍵を渡し、番号を再度確認して点火スイッチを押すように促した。  夫は愛しい妻との最後の別れを惜しむように、今一度躊躇い静かに息を吐くと銀色のボタンに力を込めた。  炉の点火を確認した職員が、「終了までは×時間程掛かります。お時間になりましたら、御呼びいたしますので、それまで控え室でおくつろぎください」と言った。  控え室は建物の中央にあり、よく手入れされた庭に面したガラス壁からは、火葬場の建物の半面ほどが見渡せるようになっていた。  しばらく庭の緑を眺めていた夫は、頭を傾げガラス枠の端から見える煙突の傾斜を見上げた。エッヂの効いたサッシ枠の縦線と煙突の描く線の不揃いに不思議な気持ちを感じながら、立ち(のぼ)る薄い煙に亡き妻を思った。  君はどこへ行くのだろう。  煙突から出る微かな煙は上空へ上りつづけ、やがて空の色とひとつになった。
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