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 女は搭乗エプロンから直接通路を渡り機内へと向かっていた。通路には搭乗員たちが並んでいて、通りすぎる乗客に笑顔を向け、「どうぞよい旅を」と口をそろえ微笑み掛けていた。  気分の高揚を感じた女は、自分の席へ着くと、窓枠から見える自分が生まれ育った街並を見詰めた。高く(そびえ)え立つビルや工場などの高い煙突が遠くに並んで見えた。  やがて機体に命が吹き込まれ、力強い脈動が機内へ流れ込んでくる。細かな振動は大空へと羽ばたく期待感を煽り、エンジンの甲高いノイズは大空へ飛び立つ勢いを後押ししていた。胸のすく加速がもたらす心地よいGが、急上昇からフッと途切れた。窓にはもう街の姿はなく、地平線を歪める湾曲した色だけがあった。 「これでよかったのよ」  愚図なあなたも前へ進むときが訪れたの。貴方は貴方らしく、マゴマゴしていたけれど、あたしはあたしらしく、大空へ飛び立つときを迎えられた。 「グッドラック」  飛行機はジェット気流の高度まで上昇を続ける。遠ざかる機体は空の色に溶け込むと、やがてひとつになった。    〈了〉
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