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 男は病院の廊下に備え付けられた長椅子に浅く腰掛け、肘を腿に乗せて顔の前で組み、沈痛な面持ちで隣に立つ男性からの問いかけに、言葉少なげに答えていた。 「まったく身に覚えがないのですね?」 「そうです。なぜあんな時間に出掛けようとしたのか、私には見当もつきません。夫婦仲は円満ですし、ケンカだって滅多にしたことはないですから」 「奥さんのバッグの中には航空チケットありました。それ以外は雨の道路に散乱し、通行車両に踏み潰されてしまったようです。ケンカをする時はどんな内容でされるんですか?」  警察にそんな事まで言わなければならないのか? 男は警察官に言葉を濁した。 「ご主人には申し訳ないのですが、加害者の人生にも関わる事ですから、どうかお願いします」  男は顔を上げ、「彼女の気まぐれが多かったと思います。自分らしく生きたいだなんてよく言う人ですからね。それで、加害者――トラックの運転手はなんと言っているんですか?」と逆に警察官へ問い掛けた。
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