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Ⅲ
一度タクシーのまわりを見回した女は、先ほどまで降り続いていた雨が嘘のように晴れ渡る午後の空を恨めしげに眺めていた。
女は、諦めたように傍らのバッグを無造作に手繰り寄せ、中身の確認をはじめた。中には航空チケットやクレジットカード、そして手紙が一通ある筈だった。
「あれ? 無い。さっきまで確かにあった筈なのに」
タクシーの運転手が心配げに「財布でも忘れたんですか?」と、ルームミラーを覗き込んだ。
「そんなんじゃないけど、あたしにとっては大事な物なの」
航空チケットを忘れていたら目も当てられないけど、手紙なら――また『向こう』で書くしかないか。
あたしも彼のこと言えないわね。夫婦は似てくるなんて言うけど、一緒に暮らしているうちにあたしも彼に似てきたのかしら?
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