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 女は夫と別れるつもりで家を飛び出していた。特別な理由があったわけではないのだけれど、最近優しいだけが取り柄の夫に、現実離れした妄想癖のようなものを感じるようになっていたからかもしれない。  夫の優しさの正体は、彼の中にある妄想のあたしへの優しさではないのか、そう思えるのだ。 彼にとって実体である本物のあたしはただの人形で、あたしは彼の中のあたしの真似をしているだけに思えていた。彼にとってあたしは、触ることができるだけの、ゆっくりと死を迎えるだけの存在でしかないのではないか。そんな漠然とした息苦しい暗示を感じていた。  その日彼女は、昼前のテレビ番組で、外国の風景を眺めているうちに、自分の姿をその風景に重ね合わせ、違う人生の可能性を感じていた。
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