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「よろしいですね」 「はい」  眠り続ける彼女の生命維持装置の電源は切られた。光を描き続けていた波が弱まり、やがて一本の線となった。  彼女を看取った夫に医者が、「○月○日×時×分×秒。ご臨終です。亡くなられた時間は覚えておいてください。死亡診断書にも記載されていますから」といった。 「ありがとうございました」  夫は医者に頭を下げる。看護師が、取り付けられていた機械のセンサー類を片付け、遺体を整える清拭(せいしき)へ向かう前に、夫に今後するべきことを簡単に説明した。 「まずは葬儀の準備をお願いします。病院内で亡くなられた場合、△時間以内に――」  清拭をおえて、白木綿の死装束(しにしょうぞく)に身を包んだ妻と再会した夫は、彼女に施された死化粧の、生者とは違う独特の造形的美しさに見入った。生きて言葉を交し合った頃に感じた彼女の、瑞々(みずみず)しい動の美しさとは異なる、彼女の(せい)の美しさを今はあらためて感じていた。
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