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 一向に進む気配のない車列を眺めながら、女は雨が降り始めた頃の記憶を思い出そうとしていた。  でも、何も残さずに彼の前から居なくなったりしたら、彼は悲しむに違いないわ。彼の為に、せめてあたしの思いを手紙にしたため、彼が早く立ち直る切欠になる為の手紙をテーブルの上に置いて部屋を出た筈だったのに……。  その時、運よくキャンセルされたチケットを手に入れた女は、残暑が残るアスファルトの熱気に燻されていた。空港へと向かう為に、午後の国道でタクシーを待ち続けた。仕事の車が行き交う時間帯の国道は、タクシーにとって好ましくないのだろう。訪れるタクシーはいずれも送迎中か予約の車両ばかりだった。  晴れわたった夏を惜しむ青い空を、高い雲が日差しを隠しはじめた。降り始めた小さな雨が路面に吸い込まれ、熱気となったアスファルトの香りが鼻腔を(くすぐ)りはじめていた。
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