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フロンガス
人に研究内容を紹介するとき、科学者がまず知りたいのは、「相手がどの程度分かっているか」である。小学生向けのパフォーマンスであれば、「見たまましかわからない」をベースにする。だから、磁石、という言葉は使っても、磁力という言葉は使わない。
これが大人相手になると難しい。だって小学生向けの説明だと失礼だし、同業者というわけではない。
さて、目の前の勇気くんは、中学生。なんて説明したものか。議題は「エアコンの仕組み」である。フロン構造式と沸点のグラフを見せれば理系大学生向けの説明はおわりであるが。中学生にどう説明したものか…。
フロンといえば地球温暖化で有名であるからこれを軸に説明することにした。
「勇気くんはフロンを知っているかい。そう、地球温暖化で有名なフロンガスだ。さて、そのフロンガスはどういう風に便利なのか知っているかい」
「え、フロンガスって便利なの?」
「そうとも。なぜ世界中で鶏と牛と豚が飼育されているのかというと、美味しいからだ。なぜ牡蛎やホタテが養殖されているかというと、やはり、美味しいからだ。ではなぜフロンがたくさん使われているのかと言うと、便利だからだ」
「へえ、知らなかったよ」
「フロンガスは特に、冷蔵庫やエアコンで冷媒として使われている」
「霊媒?」
「幽霊の霊じゃあなくって、冷蔵庫の冷だ。」
「冷媒って液体?」
ふむ、と博士はあごひげを触って、こう言った。
「気体になったり液体になったりするんだよ。液体が気体になると、周りから熱を奪う。そして、気体から液体になると周りに熱を放出する。凝縮行程 で高温・高圧になった冷媒ガスから外気に熱を移すことで冷媒が凝縮し、膨張行程で高圧の液冷媒の圧力を下げ、蒸発行程で室内空気から奪った熱を冷媒に与えることで液冷媒を蒸発させる。この冷たい気体がエアコンの室内機を通ることによって、冷たい風が流れるわけだ」
勇気くんはあくび噛み殺している。退屈になったらしい。もっと面白く話をしてやらないと…。
「フロンはできた当時はアンモニアと比べて人体への毒性がないと言われてね。でもオゾン層を分解することがわかってからは、今は環境負荷を避けるためにフロンではなく代替フロンというものが使われていて…」
「博士、僕、ちょっと頭がいたくなってきちゃったよ」
「おや、じゃあお話しはやめてコーヒーでも…うん、コーラがいいって?じゃあ、おうちに帰るのがいいよ」
どうやらコーヒーを飲みながら代替フロンの話をしようとしたのがバレたらしい。勇気くんは相変わらず、賢い少年だ。
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