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浦島太郎の考察
ここは博士の研究室。中学生の勇気くんが遊びに来ている。
「ねえ、博士。何かで聞いたことがあるんだけど、人間は、未来には旅することができるけど、過去には行けないらしいね」
「勇気くん、よく知っているね。相対性理論を使えば時間旅行は可能であるが、未来には行けるが過去にはいけない。すなわち、周りの時間と自分の時間に対して差異を生じさせることは可能だが、時間を戻すことはできないのだ。どのように利用するのかというと、例えば、不治の病の人が未来にいけば、当時は存在しなかった医療技術によって助かる可能性があるのだ」
博士は熱っぽく喋った。博士は、物理と化学の話になると、急にたくさん喋るからびっくりさせられる。
「ふうん、つまり、過去にはいけないけれども、浦島太郎にはなれるということなんだね。ところで浦島太郎は何年分タイムスリップしたんだろう」
「ふうむ、なぜ浦島が竜宮城に行ったのかというと、やはり、不治の病にかかっていたのではあるまいか。そして、玉手箱。これは、本来、凍結保存された若いからだを、本来の年齢まで戻すという効果があったと仮定する。竜宮城でみたとされる幻覚は、冷凍保存で寝ている間の本当の夢であったと考えられる」
僕はミルクと砂糖のたっぷり入ったコーヒーを飲みながら、ふんふん、と頷いた。それを確認して、博士はさらに喋った。
「浦島はおそらくは13才くらいの子どもであったのだと思うのだ。それで、竜宮城というタイムスリップ装置に乗っている間も年はとる。そのぶんの年齢。つまり、浦島は、400年くらいの先に旅して、50年分年をとったとも考えられるわけだ」
「浦島太郎はなんの病気だったのさ」
「そうだなあ…例えば、若年性のガンだったんじゃあないのか」
「へえ、カメはどうしてそんなことがわかったの」
博士は自分の分のコーヒーを入れてもどってきた。少し歩くと頭が回るというのが博士の持論である。
「カメは万年というだろう。つまり、万年生きるロボットだったのだよ」
「へえ!」
「その医療ロボットが浦島の病気を見つけ出し、病気の治療のためにタイムスリップさせたのさ。カメが虐められていた理由というのもロボットだったからだ!」
「ふうん、ところでさ、竜宮城というタイムマシンに乗った浦島太郎は幸せだったのかい。」
「君はいま幸せかい?」
「へ?」
「君が浦島太郎で記憶をすげ替えられている可能性が少しもないとどうしていえる?そういえば君はまだ、玉手箱を開けていないだろう」
冗談だろ、と思って僕は薄ら笑いを浮かべたが、博士は真面目な顔で僕を見つめるばかりだった。本当に博士は冗談が下手くそで困る。
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