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その日、智美はピンをくれた。髪留めのピン。気後れするくらいの金色だった。いつも智美がつけていたものだ。
どうしたの、これ、と尋ねると、あげる、とだけ言う。ふうん、そんなもんかと思って自分の髪に差す。その時から、その金色は私のものになった。
ありがとう、またね、と言うとあの子は少し寂しそうに笑って言った。
「多分もう、会えないんだよね」
「どうしてそんなこと言うの」
「どうしてもだよ」
こんな風に意味の無いことを言う智美は、もう説得できないことを知っていた。
「そっか」
「うん」
「元気でね」
「うん」
「じゃあね、智美」
「うん、じゃあね、智美」
最後に手を握られながら、どうして、と諦められない私に、智美が呟く。
もう、いらないや。
いらないのは私なのか、あの子なのか、今でも分からない。でも私達は、普通の人より長く二人で居すぎたのだと思う。今ではもう、片方だけでいい。
その日、私がいなくなった。
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