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夕紅とレモン味
行き合いの空に少しだけ、欠けた月が夜空に浮かんでいた。ほとんどまるいかたちをしたそれは満月と言っていいのかもしれない。
ふと手元に視線を落とす。ティーカップに注がれた紅茶が月明かりに照らされてもなお、夕空を閉じ込めたような橙色に輝いていた。沈殿した茶葉が濃い色層となって、いっそうどこかの夕暮れ時の風景に見える。
そっと、華奢な取っ手をつまんで、カップを口に運ぶ。鼻孔からいつもどおりの芳潤な、でもどこかほのかに爽やかな香りがほろびでる。カップを置いて静かに息をすうと、それは森林の香りと夜風にかき混ぜられて、不思議と心地好く感じた。
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