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通話を切り呆然とする間に、どんどん雪が降ってくる。
慌てて車に戻り、飛び乗った。フロントガラスを白いかけらが埋めてゆく。
――全然モテないダサ男で貧乏で
――仕組まれたお見合い
――気をつけなさいよ
ぼうっとしてる場合ではない。このままだと雪に埋もれ、サービスエリアに泊まることになってしまう。
「もう~、最悪!」
経理の皆、知っていたのだ。課長の手前、本当のことは告げられず、私の休暇を許してくれた。
そんな理由があったのだ。
泣きそうになるが、安全第一。距離の近いほうへと走るしかない。
つまり民宿銀嶺に。
「一泊したら帰る。絶対に帰るからっ」
罠にはまった私は驚きと腹立ちで傷心を忘れた。
高速を降りると、その罠へとひたすらに走った。激しさを増す雪に気を取られ、何も考えられず。
他の宿を頼み、民宿銀嶺をキャンセルすればよかったのだと気付いたのは、民宿の前で雪かきをしている仁科慶彦の視界に入ったあとだった。
やっぱり私は、鈍すぎる。
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