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「すみませんが、矢沢様。お部屋のほうは只今準備中ですので、そちらで暫くお待ち願えますか」
早く一人になりたかったが、準備中なら仕方ない。
彼に案内されて、暖炉を真ん中に据えたロビーに移動し、長いすに腰掛ける。
ほっと息をつき、とりあえず落ち着く。仁科慶彦はどこかに行き、姿が見えなくなった。
「はあ……疲れた」
美佐子から話を聞いて、すごく変な人を想像していた。そのせいか、わりとまともな男性に感じられる。
もちろん、だからといって気を許すわけではないが。
私は顔を上げ、吹き抜けの天井や、部屋へと続く廊下など、きょろきょろと見回す。外観は昔風の民家だが、中は広く、意外と立派な建物だ。隅々までよく手入れされて、清潔感があった。
従業員と思しき人を見かけるが、きちんとした服装で、きびきびと働いている。
服装といえば、仁科慶彦だけは作業服の上に古着のようなジャンパーを羽織り、オーナーという印象ではない。
「やっぱり、変わった人なのかな」
フロントの奥から彼が出てくるのが見えて、私はきょろきょろするのをやめた。
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