ホットココア

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「ええと……確認なのですが、矢沢悠美様」 彼はあらたまった言い方になり、もう一度しっかりと私を見つめた。 「は、はいっ」 異様に緊張してしまう。どちらがお客なのか分からない。私は立場を忘れている。 「間違いなく、4泊5日のご予約ですね。ええと、2月14日の月曜日にお帰りの予定となっておりますが」 「はいっ、間違いないです。よろしくお願いします」 やたらと力が入る私の返事を聞くと、安心した顔で彼は頷き、立ち去った。 まっすぐな背筋の後ろ姿を目で追う。私の頭からは、明日帰ろうと決めていたこと、仁科課長に雪玉をぶつけたかったこと、何もかもが霧消していた。 でも…… そんな簡単には切り替えられない。 「やっぱり、なんだか変……」 窓の外、降り続く雪を見ながら、忘れたと思ってもやはり消えない傷心を、そっと押さえた。
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