鈍い女

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時郎(ときお)とは一年前に、友人の紹介で知り合った。 明るく元気なスポーツマンタイプの彼は、3つ年上の25歳。スポーツ用品を扱う会社の営業マンである。 お互いアウトドアの遊びが好きなことで意気投合し、週末はあちこちの山へスキーやキャンプに出かけた。 初めての夜は、夏休みの家族連れで賑わうオートキャンプ場に張ったテントの中。狭いスペースであり、声が漏れないかと心配して、集中できずに終わった。 彼は満足していたが、私はその時点で違和感を持っていたのだ。 考えてみると、あれはほとんど一方的だった。鈍い私はあとになって気付くことが多く、今もそう。 2月に入った途端、別れた悲しみが実感となって湧いてきて、ぽろぽろと涙を零している。時郎と過ごした日々、楽しかった思い出がふとした瞬間に蘇り、思考を停止させる。 高校卒業後に就職した印刷会社の経理課で、毎日真面目に働いてきた私だけど、休みたいと思ったのは初めてだった。 心身の疲労を癒したいからなどという理由が通るだろうか…… 迷いながらも私は正直に、土日を挟んで5日間の休暇を上司の仁科(にしな)課長に申請した。
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