長靴

2/7
143人が本棚に入れています
本棚に追加
/88ページ
ここはどこだろう―― 翌朝、目を覚ました私は、布団の中でぼんやりとした。 何時だろう、仕事に行かなくちゃ……慌てて起き上がるが、うっすらと明るい障子の窓に目を留め、ここが旅先であるのを思い出した。 「ああ、よく眠った~」 温泉のおかげだろうか。体が芯から温まり、溜まっていた疲れも、すっかりとれた気がする。 「そっか、ここは民宿なんだ」 八畳一間に洗面所とトイレが付いただけの、何の飾り気もない部屋。だけど4泊の間、ここは私の居場所になる。そう、ゆったりとくつろげる居場所に。 布団を出ると、スウェットの上にカーディガンを羽織って立ち上がり、障子を開けた。 曇ったガラス越しに外を覗くと、夜が明けて間もなくのようで、まだ太陽はここから見えない。 雪は止んでおり、シンとした世界が広がっている。 「山の朝だ」 一人きりの部屋。知り合いが誰もいない土地。 毎日のスケジュールから解放され、自由の身である実感がふつふつと湧いてきて、私は自然に笑みを浮かべていた。
/88ページ

最初のコメントを投稿しよう!