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課長は分厚いレンズ越しに私を眺めると、引き出しから便箋を取り出し、さらさらと万年筆でしたためはじめた。
「矢沢悠美。22歳。独身。私の部下である。心身疲労している模様。どうぞよろしく……と」
「あのう、課長」
「何だね」
課長は便箋を折りたたみ、事務用封筒に入れて糊付けをし、私に差し出す。流れるような作業に合わせて、自然に受け取ってしまった。
「これは、一体?」
課長は真面目な顔で「うん」と頷き、説明した。
「私の甥が、長野県のK市で民宿をやっているのだ。東西にアルプスを望む、とても清々しいところでね。温泉もあるし、心身の疲れを癒すには最高の場所だと思うんだ」
「はあ」
「ここから遠くもないし、ちょうどいいんじゃないかな。他に予定があるなら、無理にはすすめないが」
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