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――悠美の優しさが好きなんだ。
「時郎……」
『会って話をしたい』
どういうことなの。
混乱し、思わず目を伏せかけた時、あの人の声が聞こえた。見ると、マスクを取り、嬉しそうに笑って手を振る姿があった。
「お帰りなさい! 寒かったでしょう」
「仁科さん……」
スマートフォンを耳から離し、混乱を振り切った。
昨日、美佐子が電話してきたのは、時郎の話を真に受けたから。彼の必死の訴えに心を動かされてしまったのだ。つまり彼女は、『もう一度時郎と話し合いなさい』と言いたかったのだ。私が仁科慶彦さんに会う前に。
課長の企みも、仕組まれたお見合いと言うのも本当だろう。だけど、仁科さん本人については嘘をついた。
仁科慶彦さんが私の理想に一致する人だと、美佐子なら知っている。
上手くいってしまっては困るから、嘘をついたのだ。
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