お前とやり直したい

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美佐子が時郎の名前を出さなかったのは、私が拒絶すると考えたからだろう。 いや、もしかしたら時郎の入れ知恵かもしれない。情熱的な物言いは、時郎の優れた武器である。仕事にも恋愛にも、それは生かされ、彼の魅力になっている。 人の好い美佐子を懐柔するのも、難しいことではない。 私は、自分にない押しの強さ、大胆さを持つ時郎に惹かれた。好きだったし、憧れてもいた。そして結局、一方的な別れも黙って受け入れた。 私が悪かったのだと、彼を失ったことが悲しくて、辛くて。 後になって気付くのだ、私は。今も、ほだされかけてしまった。また同じことを繰り返すところだった。こんなのは優しさじゃない。ただひたすらに鈍いだけだ。 もう、あんな辛い思いはたくさん! 仁科さんは微笑んでいる。朝陽に照らされ、まぶしく輝く白銀の世界で。 少し変わってるけど、貧乏だけど、明るく私を迎えてくれる、あの人に向かって駆け出していた。深い雪でも転ばなかった、寒くなかった。 かっこ悪くても、私を守ってくれる素敵な長靴。 履かせてくれたあの人に、真っ直ぐに走っていった。
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