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何かに追われるように雪の中を駆けて来た私を、仁科さんは心配顔で覗き込んだ。
「どうしたのですか、そんなに慌てて」
「い、いえ、なんでも」
息を弾ませながらも笑みを作ると、彼は安心した様子になるが、ちらりと視線を落とす。私が握っているスマートフォンだ。
「……朝食の準備ができてますよ。さ、お入り下さい」
「はい」
返事をしながら、さり気なくスマートフォンをポケットにしまう。何も訊かれなくて良かった。
朝食会場の座敷で昨夜と同じ席に座ると、例の中年女性が、ごはんと味噌汁を運んでくれた。
「おはようございます、矢沢様」
彼女は今朝もにこにこしている。
「うふふっ……あらためまして、自己紹介しますね。私、小島と申します。本日もよろしくお願いしまーす」
屈託のなさは、馴れ馴れしいというより親しみを感じさせる。小島さんの元気に釣られて、私も笑顔になった。
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