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「そろそろ帰らなきゃ、重森さんに怒られちゃう」
「あ、私も一緒に行きます」
小島さんと並んで玄関まで歩く。今日は近くにある有名なお寺にお参りして、午後からはロープウエイに乗ってみるつもりだ。
玄関に下りた私は、小島さんがブーツを履くのを待って、訊いてみた。
「さっきの心配事って、なんですか?」
「ああ、うん。他の皆も、やきもきしてるんだけどねえ」
小島さんはチラと私を見やった。
「分かるでしょ?」
「?」
反応の鈍い私に焦れたのか、彼女はゆさゆさと体を揺すり、前を指差した。
「あ・の・ひ・と・よっ!」
玄関を出たところに仁科さんがいるのが見えた。腕組みをした後ろ姿で、空を見上げている。
「あんな仁科さんは初めてなのよお。何とかしてあげて」
「はあ……えっ?」
小島さんはにんまりと笑い、ようやく何のことか分かりかけた私を、どんと押し出した。
「あっあっ、ちょっと待ってくださ……」
前につんのめり、仁科さんの背中にぶつかってしまった。
「あれっ、どうしました」
仁科さんはびっくりしている。私は慌てて飛びのいた。
「ごめんなさいっ、あの、違うんです」
突然接触した言いわけをするのだが、うまく舌が回らない。
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