獣の住む処

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人獣は、そのわずかな生命の糧は森から得て暮らす。 獣を狩り、木の実や野草を細々と食すのがその生命である。 風呂は泉か小川、便所は草むらである。 それでもなお、有する人の理性と言葉は、(かえ)ってその生活における精神面の足枷となっているのだ。 人里に出れば石もて追われ、わずかに労力として用いられてもその辛苦は安く買い叩かれる。 それで、その人の世に捨てられ、また自らを侮蔑してきた人の世を自らも捨てたその暗く陰鬱(いんうつ)な情念が、その暮らす森の薄暗さと相まってさらに陰惨(いんさん)な精神的情景を織り成す。 それが、この世における人獣の暮らす場所なのだ。 だがシルヴィンが、その侮蔑の目で見られながらも人間の仕事をこなしているのは、その天性の朗らかさが、その生活がもたらす陰惨さをはねのけていることともう一つ、それでここに暮らす仲間たちの生活を支えるという彼の義侠心(ぎきょうしん)ゆえだ。 人獣たちには着衣のものはほとんどないが、木のうろから這い出したものには、咳をしながら細身の体を、それでも重く引きずるように現れたもの、世の全てに見放され、そしてその世の全てを睥睨(へいげい)した目つきがすでに顔全体に染み込んだような表情に、(つぎ)だらけの麻布を纏った人間の姿もちらほらあった。 何らかの事情、主に、病や、生まれながらの心身の不具、また罪を犯したり、人間界で掟とされることを破ってその世界を追われた人間も、ここでは受け入れているのだ。
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