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獣の住む処
ささやかな仕事で得たささやかな銅貨とパン。
これをかかげたシルヴィンが向かった先。
森の奥。少し広がったその空間には、岩場の作る大きな自然の段差があり、その岩の隙間にもたくましく根を下す木々のうろの中に、さらに人の手が掘ったと見える穴倉がいくつもある。
「みんな。村で少しだけどパンを貰ってきたよ。」
シルヴィンはその穴倉に向かって、誰に言うとなく大きな声をかけた。
「おお、ありがたい。」
「いつもすまないねえ。」
その穴倉から出てきたものたち。
シルヴィンと同じく、獣の属性を帯び、その耳に、爪に、尾にそれを表しつつも人の形をした人獣たち。
人間の世を追われ、ここに落ち延びたものたちである。
その身体は、山犬や山猫、熊に狼、兎や鹿など様々な獣の性質を具有しつつも、その野生に生きる生命の生き生きとした力は感じられず、代わりに、人の世に生きることの疲労と倦怠ばかりを顔ににじませているものばかりである。
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