花散里(はなちるさと)

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 源氏が広大な土地に町と言っても良いほどの邸宅、六条院を建設の後は丑寅の町、通称夏の御殿の主となります    源氏の訪れがあった日、夜もふけて、では休みましょうかという時刻になると、彼女は自分のベッドを光源氏に譲り、自分は少し離れたところで休もうとします。  源氏は何で?とボカン顔。 「こっちにおいでよ、夫婦なのに水くさい、床に寝るなんて体痛いよ?」 とかなんとか言って誘いますが、彼女は柔らかくそれを断ります。 「いいんですよ、もうこんな年になったんですもの、そんな、ねえ、あなた」  と、この頃はまだ何才からと決まってなかったにも関わらず、自らお褥滑りを申し出たのです。(年齢は定かではありませんが多分30才前くらいかと思われます)    その後も源氏が来なくとも不平も不満も口にせず、来れば来たであたたかく迎える花散里。その穏やかさは疲れた源氏の心の拠り所となっていきます。  時系列は前後しますが、その信用信頼は日毎に増し、源氏と葵の上との子である大事な長男「夕霧」を預けるまでになります。  夕霧は内心『あのキラキラでピッカピカの父がどうしてこんな普通の人、というかどっちかといえばあまり美しいとは言えない人を大事にするのかわかんないな』と、超失礼な事を思っていいたのですが、花散里の優しさに触れていくうち、父の人を見る目に納得します。  夕霧は彼女にとても良くなつきます。その仲良しぶりは、夕霧が長じてからも「ちょっと母さん、聞いてくれる?」と愚痴をこぼしに行くほどでした。  放ったらかされても不平不満を言わず、嫉妬せず、いつでも変わらぬ態度で優しくあたたかく包み込み、道理を弁え、且つチャーミングである。  地味で目立たないと言われてしまう花散里ですが、私は大好きです。他の女性とは一線を画した境地にいるところも私を惹きつけました。    ある日ふと思ったのです。花散里が提示する条件は、源氏にとってあまりに都合が良くない?と。    恋する男にも日常はあり、それを支えてくれる家庭が必要、だからそれを花散里が担わされているのだろうか。 花散里は源氏に都合の良いだけの女?  でも、何か違う気がするのです。  源氏の事が好き過ぎて我知らず生霊を飛ばしてしまう女性を書く紫式部がそんな上っ面だけの女性を書くだろうか?  この頃の女性は実家の威光と自身の地位がイコールの時代。花散里にそれはありません。頼るは光源氏ただ一人。  何の後ろ盾も無い自分が生きていくには、どう立ち回れば良いのかを考えに考えて、自分の持ち味を最大限に活かした戦略に打って出たのでは無いのかと思えてきました。  良い意味でとてもしたたかな女性だったのかも……  しかし、そこまで考えても、そうよね、そうに違いない!とはならなくてモヤモヤします。 深く考えすぎな私に向かって 「そんな大それたこと考えてませんよ、天然さんという意味はよくわからないけど、そう言われるならきっとその天然さんなのかもね」 と花散里が笑ってる気がします。  結局それが一番しっくりきたりもします。  一生恋の苦しみから逃れさせてもらえなかったけれど愛されつくした紫の上、早々に自ら恋の舞台から降り家族へと移行した花散里。    源氏の愛した女性ツートップは一見真逆の生き方をしているようですが、後ろ盾がないのは同じ。  紫の上ですら、追い出されたらどうしようと終生怯えていましたので、夕霧の子を預かるまでになっていても、それは花散里も同じだったのではないでしょうか。  各々必死で生きていた同士だったのかもと思ったりもします。    皆様には花散里がどんな女性に映るでしょうか。 .☆.。.:*・゚(´∀`).☆.。.:*・゚  光源氏のすごいところは、情を交わし自分を必要としてくれる女性は見捨てることなく全員引き取ってしまうところです。  血筋、地位、財力があってこそ可能なんですが、この優しさ、情の深さは凄いなと思います。            
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